「天気の子」は昨年のわたしのお気に入り作品のベストスリーに間違いなくランクインするだろうと思います。
なにせ映画館には3回も足を運んでしまったし(そんなのタイタニック以来だ)
映画の挿入歌はいまでもよく聴いている。
「君の名は。」のときも新海監督の小説版は読みました。(あ、ちなみに「君の名は。」は一回しか観に行っていません)
そのときは「映画がそのまま小説になった」という感慨以上のものは浮かんでこなかった。
今回はどうかな?
「小説 天気の子」
簡単にいうと。
新海さん、「君の名は。」の頃よりも腕が上がっています。
「君の名は。」は、綺麗に映画が小説になっていて、でも正直小説版は読まなくても良かったかなと思ってしまった(すみません)。もちろん映画が文章化される面白みはあるけれど、新たななにかはそこには見出されなかった。
別の作家さんがノベライズしたサイドストーリーもあったけど、そちらは読んでいません。なんか、ちょっとそれは新海監督が書いた小説とは”違うもの”感があったからです。
今回の「小説 天気の子」は、あります、あります。
小説版だからこそ深められるディティールが。
映画では削ぎ落とさらざるを得なかったものが、小説だから描かれている。
わたしは小説の文章はよくわからないけれど、描写力も上がっていると思う。
だから、どんどん読み進めてしまった。もう映画で筋は知っているのに、とっても面白かった。
でも、すごく不思議だなあとも思いました。
単純に、純粋なる小説として読んだときに、わたしはこの物語を同じ熱量で楽しめただろうか。(そもそも読むだろうか)
たぶん、違ってくるだろうと思う。読まないかもしれない。
小説の原作があって映画化されるのと、映画があってそれが小説化されるのと、そのどちらとも違うのです。
なにせこれは新海監督が書かれた、どこまでも映画に忠実な一次創作だから。
映画で描かれていない部分が描かれていても、それは単に「映画では描かなかった」だけで、でもちゃんと裏設定としては存在していることです。
そういう意味で、これは映画ありきの小説で、映画の一部なんだなあと思いました。
映画を読んで、小説を読むのはさらに映画を楽しめる。
でも、小説だけを読んで終わりにするのはもったいない。これはぜったい映画も観てほしい。
まあ、どんな風に楽しむかは個人の自由ですけどね。個人的にはそんな風に思いました。
小説版でやっと腑に落ちたところ
映画で観ていて、いちばんの疑問だったのが、冒頭の帆高が船の上で嵐に喜んでいるシーンです。
なんで? って思いながら、想像をめぐらしていました。
小説では、その辺の帆高の心情が描かれているので、「おお、なるほど」とやっとストンと落ちました。(だいたい想像していたのと外れていなかった)
それにしても、このシーンの須賀さんが帆高を助けるのって、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」で主人公ホールデンが語る、”ライ麦畑から落っこちないように子どもをキャッチできる人になりたい”にすごく通じるところがあるなあと思います。(ってこれ、前も書いたっけ?)
新海監督のあとがき
これも、小説版ならではの醍醐味というか。
「君の名は。」の大ヒットの後に、「天気の子」を制作するにあたり、あえて意識されたことが書かれています。
それは、物語だからできることをやろうということ。
映画を観たときに「え、それって大丈夫なの」というくらいのことを帆高は(須賀さんや夏美さんも)やってのけて、映像がリアルな分、そのギャップにとても驚かされて、でも自分のなかにある社会の枠にはめられている部分とかも意識させられました。
物語の持つ力。
物語だからできること。
物語を通して得られること。
そういうものと真剣に向き合ってつくられたんだなあということが、逆説的に物語の持つ力について気づかされた体験にもなりました。
あとがきで、それを改めて言葉で受け取れたのは、良かったなあと思います。
だってね、世の中で最も残酷なものは、子供が親しむおとぎ話の中にこそ描かれているんですよ。
前に村上春樹さんの対談集でも思いましたが、物語の持つ力は、これからの時代より必要になってくるのではないかと思いました。
必要になってほしい。わたしは必要だと思う。
結び
小説版は別に読まなくても良いんだけど、でも読むとさらに映画版の彩りが増します。
でも、なんというか。やっぱりこれは映画版があってこそなので、小説版だけでなく映画版も読んでほしいなあと思います。(どんな風に楽しむかは、個人の自由ではあるけれど)
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