孫子って面白い! 「真説 孫子」デレク・ユアン


真説 孫子 デレク・ユアン著 奥山真司訳 中央公論新社

 

出会いと第一印象

新聞の書評で見かけて、「おお、なんだか面白そうだ」と思って手に取りました。

本屋さんで「こども孫子の兵法」をパラパラと立ち読みしたのも記憶に新しいからかもしれません。

 


強くしなやかなこころを育てる! こども孫子の兵法

 

しかし、特に兵法にも中国にも孫子にも興味のないわたしには、「兵は詭道なり」や「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」などの名言こそ耳にしたことはあるものの、名言の人としてはカエサルなみの位置づけで(カエサルのほうが統治者だから有名かもしれないけど)、「あれでしょ、孔子とか老子とか子のつく人だよね」くらいのぼんやりとした認識しかありませんでした。

(いろんな方向にすみませんと謝るレベルの発言と思います。すみません)

無知って怖いものだ。

 

いやあ、読んでみたら目から鱗でした。めちゃくちゃ面白い!

 

わたしの軟弱な頭では理解できないところもたくさんありましたが、それをあまり余って出会えた衝撃と得られた知見は大きいです。

 

孫子兵法はビジネス書にもよく引用されているらしいですが(これも初めて知った)、ビジネスに限らないんじゃないかな。紀元前に書かれたものが、いまなお色褪せないってすごいですね。

 

本書の紹介

著者の香港出身のデレク・ユアン氏は英国ロンドン大学経済政治学院(LSE)で修士号、英国レディング大学で戦略学の博士号(Ph.D)を取得されています。訳者の奥山真司氏は、レディング大学の博士号課程の後輩だったそうです。

「孫子兵法」についての詳しい解説もあるので、「孫子兵法ってなんだ?」というわたしみたいな初心者にも優しく、中国の戦略思想の根本にある歴史的な背景や考え方の違い(西洋との比較において)についても詳しく書かれています。

 

これまでの西洋での「孫子兵法」の解釈に足りなかった陰陽論やタオイズムについて詳細に解説するとともに、西洋のカール・フォン・クラウゼヴィッツと孫子を比較、分析しています。

 

香港出身で中国文化について基盤を持ちながら、英国の大学院で博士号を取られるほどの英語に堪能な著者だからこそ、西洋のこれまでの孫子兵法の解釈に不足していた部分にメスを入れることができ、かつ西洋の戦略理論と比較することもできたんだろうと思います。

 

プラスで、ユアン氏による孫子の解釈が英語で書かれるというのも、きっと西洋の戦略学にとって一石を投じられる大きな出来事だったのだろうと勝手に推測します。(それを日本語で読める幸せ)

 

孫子について全く無知なわたしには、日本における孫子の位置づけが全くわからないので、「ああ、無知って悔しい!」と思うことがしばしばありました。

 

感想というか印象に残ったこと

①「孫子兵法」は文字通り兵法について書かれているものだとばかり思っていましたが、孫子が重視していたのは、「戦術<戦略」であったこと。もっと大きな視点での勝利が目的であり、名言にあるようなことはそこが最重要ではない。

戦の位置づけがそもそも西洋と違う。戦をしないで勝てるならそれに越したことないでしょというのが戦略の肝です。

 

②西洋において、おそらく理解し難くこれまで捉え切れていなかったことに、「陰陽論」や「タオイズム」の概念があること。

これはわたしにとって目から鱗でした。

 

戦略と聞くと、科学的な感じがするのに、非科学的な感じのする単語が、「孫子兵法」を理解するのに必須であったからです。(もちろん科学的要素も重要です)

 

タオイズム」という言葉は耳慣れないのですが、「道(タオ)」は聞いたことがあります。

中国学者リヒャルト・ヴィルヘルムのレインメーカー(雨乞い師)の逸話です。干ばつで困っている村に雨乞い師が呼ばれて、タオが外れていたからタオを戻るように小屋にこもって、結果的に干ばつで困っていた村に雨が降ります。

 

タオはユングの言葉を借りれば「全体性」です。

他にも、逆説(パラドックス)や弁証法が多用されていることを念頭に置く必要があることや、「彼を知り己を知れば、百戦危うからず」についての解釈の仕方など、いやもう盛りだくさんでした。

 

終わりに

かなり盛りだくさんで、読んでいて「めちゃくちゃ面白い!」と思う反面、理解と咀嚼が追いつかず、「これブログに感想書けるかなあ」と心配でした。

書いてみて、「うーん、やっぱりまだ消化できていない」と改めて思い知りました。自分でも消化不良感が満載です。

これは何度も読んで咀嚼することでエッセンスを味わっていく種類の本だなあと思いました。

またいつか、読み返してみて自分なりに感想を書いてみたいと思います。

 

おまけ:孫子を読んで関連で思いついたこと

どうでもいいことを三つ。

三国志の軍師の重要性を改めて考える。

昔、「真・三國無双」というゲームにはまっている時期があって、それで三国志に詳しくなりました(今はやっていないです)。ゲームからの入りなので、情報の偏りはあるけれど。

三國無双は簡単に言えば敵をバッタバッタとやっつけていくゲームでその爽快感を味わうことが醍醐味だと思うので、軍師そのものはキャラクターの一人なのですが(孔明とか司馬懿とか扇からビーム出すしね)、戦術がいかに場を左右し、さらに戦略がいかに勝利に影響するかが、つまり一人強い人がいてもそれは勝つための十分条件にならないんだなあと改めて感じました。

 


真・三國無双8 – PS4

 

うちのハードはPS2までなので、2→4までプレイしました。

一時めっちゃはまって、設定資料集も買っちゃうほどでした。

 

映画「レッドクリフ」


レッドクリフ PartI&II DVDツインパック

 

三国志関連で、映画「レッドクリフ」(赤壁の戦い!)、これ大好きです。

赤壁の戦いそのものもそうだけれど、弱者(呉と蜀)が強者(魏)にいかにして勝つか、そのための戦略が実によく描かれているなあと。また見返したくなりました。

孫子のエッセンスがふんだんに使われているし、引用もされています。

 

コードギアスで

コードギアス 反逆のルルーシュ I 興道 (特装限定版) [Blu-ray]

 

これはアニメです。三国志とは関連ないです。

主人公のルルーシュが、「戦術が戦略を覆すはずがない!」(正確な台詞は忘れたのですが、そんなニュアンスのこと)と最初のほうでスザクの乗るランスロットの出現に動転していたのですが

 

わたしは戦術と戦略の違いがよくわからず、この台詞の表している意味が今回やっとわかりました。ああ、そういう意味だったのね、と。

 

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