既視感 「浮世の画家」カズオ・イシグロ

 

浮世の画家 カズオ・イシグロ著 飛田茂雄訳

 

カズオ・イシグロ5冊目です。

 

感想

これ、原文は英語なんですよね。訳者あとがきに、翻訳についての考察が書かれています。

「日の名残り」もそうなんだけれど、文学としてそのものの面白みと、この人だから書けるという面白みと、二重に不思議な存在です。アイデンティティに関わることを、創作でやっていらっしゃるのかなとか、深読みしてしまう。「浮世の画家」の次の作品が「日の名残り」なのも、とても興味深い順番。

 

先に「日の名残り」を読んでいます。

単刀直入にいうと、読んだ感想は、とても「日の名残り」に似ていると思いました。既視感。

舞台も、登場人物も、設定も、描かれ方も、ありとあらゆることが全然違うのに、なんだか本質はどちらも似ているように思えてならない。幕の閉じ方までまるでそっくりーー全然違うのに、と感じました。

 

なんだか5冊目に来て、やっと少しずつカズオ・イシグロのエッセンスを味わえるようになってきた心持ちです。言葉にするのがとってもむずかしいのですが、筋や登場人物ではなくて、ひとつの物語を通して得られるコンテクスト。それはなんというか、かたちがはっきりしたものではなくて、でも確かにそこにある感じです。

 

わたしは日本人で日本に住んでいて日本的文化背景もある程度理解した上で、英語で書かれたものを日本語に訳されて読んでいるけれど、これが異なる言語・国・文化の人が読んだらどんな感触を得るのだろう。

そんなことを考えるのもカズオ・イシグロならではという気がします。

 

関連情報

カズオ・イシグロ特集その1「日の名残り」

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