HSCの子育てハッピーアドバイス HSC=ひといちばい敏感な子
明橋大二
HSC本としては3冊目の紹介になります。
わたしは子育てママさんではないので、どうしてもHSCは優先順位として低くなってしまいます。
本書は以前パラパラと一通り読んだことがあったのですが、今回やっと腰を据えて読み返すことができました。
個人的に、HSC本としてはこの本がダントツでわかりやすく、おすすめです。
本書の特徴
明橋先生は、「子育てハッピーアドバイス」シリーズで有名とのことなのですが、わたしは子育てママさんではないので(2回目)、ほかのシリーズは名前を聞いたことはあっても読んだことはありません。
なのでほかのハッピーアドバイスシリーズとの比較はできません。
でも、敢えていうと、漫画を交えてわかりやすい具体例を交えながら、平易な文章で、優しく温かく書かれています。(これはおそらくほかのハッピーアドバイスシリーズと共通する部分でしょう)
なので、緊張せず、肩の力を抜いて緩い気持ちで、気軽に読むことができます。それだけでも、この本の存在意義は大きい。
それでいながら、HSCのエッセンスをぎゅっと詰め込んであって、意外と痒いところにも手が届く構成になっています。
長沼先生が小児精神科で病院でHSCさんと出会うことが多いのに比べると、明橋先生は加えてスクールカウンセラーのご経験や児童相談所などの嘱託医など、医療以外の場面でも関わる機会をお持ちなので、やっぱり視点がちょっと違います。
もう少し、日常生活のなかでの視点というのでしょうか、医療機関を訪れるほどではないけれど、でも敏感さに困っている(保護者も子どもも)というところにアプローチしています。
HSC入門本としても役に立ちますし、それでいながらポイントはちゃんと押さえているので、長く幅広く使えると思います。
また、明橋先生ご自身が、アーロン博士ご本人に会いに行かれたことを書かれています(ツーショットのスナップが掲載されています)。
アーロン博士のHSCのエッセンスをちゃんと汲み取りつつ、日本文化に根ざしたものに翻訳されているのは、ありがたいことだなと思います。
読んでいて、アーロン博士の本と誤差が小さく、かつアーロン博士の本で感じた「これは日本文化とは異なるな」という文化差モヤモヤを解消してくれる感じです。
印象に残ったところをピックアップ
特に印象に残ったところを2つピックアップします。
「レッテル貼り」と「発達障がい」です。
HSCをネガティブなレッテル貼りにしない。
P46のコラムから。これは、HSC(HSPも)をどう訳すかということについてです。
英語だとHighly Sensitiveですが、
長沼先生は「敏感すぎる」と訳し、明橋先生は「ひといちばい敏感」と訳しています。あと、先日紹介した岡田先生は「過敏な」と訳しています。
「とても敏感」は、正常な性質の一つですが、「敏感すぎる」は不適切な反応であり、病的なものです。
例えば青い目をした人に対して、「あなたの瞳はとても青いね」と言うことはありますが、「あなたの瞳は青すぎる」と言うことはありません。
(中略)
HSCを「敏感すぎる」と解釈した時点で、すでにHSCに対するネガティブなレッテル貼りが始まっていることを、私たちはよくよく注意しなければならないと思います。
(「HSC子育てハッピーアドバイス」P46〜47)
翻訳ひとつをとっても、とてもよく考えて訳されているんだなあということがわかります。
注釈として『「ひといちばい敏感」であることは、「敏感すぎる」病気(不安症や神経症)とは違います』と書かれています。
(ここで別の本を引き合いに出して申し訳ないのですが、岡田先生の”過敏な人たち”は、このへんを混同されているなという印象があります)
どう訳すかというのは、繊細な問題が孕んでいるんだということ、明橋先生はそこまで考えて「ひといちばい敏感」という表現(ちょっと長くて言いにくいけど)を用いておられる。
例えば「発達障害」も「障害」という言葉が入っていることでいろんな思いが掻き立てられ、「障がい」とひらがなで書くこともあります。
言葉の使い方ひとつも、いろんな誤解を生んだりすることを、肝に命じておく必要があると思いました。
※ちなみに、ここで挙げられた不安症や神経症などは、ひといちばい敏感な気質が影響してなることもありますし、神経発達症の人でも、非HSC(非HSP)でもなります。もうちょっと突っ込むと色々あるのですが、とりあえず生得的なものではなく、二次的に起こるものと捉えていただけると良いかと思われます。
また、P214のコラムでも、レッテル貼りについて、明橋先生の意見が書かれています。
「HSCなんて、また新たなレッテルをつけて、子どもを枠にはめるのか?」という意見もあるでしょう。
もちろん、すべての子どもは一人一人違います。
家でも学校でも、一人一人の個性に合わせた関わりが実現できたなら、きっとこんな名前は、必要なくなるのだと思います。
しかし現実は、まだまだこの社会は、人と同じことが求められ、違っていると、わがままとか、親の育て方がおかしいとか言われねない世の中です。だとするならば、このHSCも、子どもに対するレッテル貼りではなく、一人一人の子どもを理解するヒントとして、ぜひ活用してもらえないかと思うのです。
(「HSC子育てハッピーアドバイス」P215)
名前がつくことの功罪についてはわたしも考えています。
わたしは名前を知って良かったと思った人ですが、なかには変な使われ方や、誤解を生むこともあります。ネガティヴなレッテル貼りは、良くない使われ方です。
発達障がいとの比較
アーロン博士は「自閉症やアスペルガー(DSM-5では自閉スペクトラム症で統一)、ADHD(注意欠陥多動性障害)とHSC(HSP)は違う」言っていますが、長沼先生は「神経発達症(発達障がい)とHSC(HSP)は併存する」と主張されています。
明橋先生は、アーロン博士の主張を踏襲しています。
自閉スペクトラム症は、人の気持ちに関しては、気づきにくい、空気を読むのが苦手、ということがありますが、HSCは、むしろ、人の気持ちを察することに、ひといちばい長けているからです。
(「HSC子育てハッピーアドバイス」P60)
前に長沼先生のHSC本のときに、わたしなりの発達障がいとHSC(HSP)の関連について意見を書きました。
子どもの敏感さに困ったら読む本: 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方「敏感すぎる自分を好きになれる本」でお馴染みの、長沼睦雄先生のHSCに関する本です。▽HSPに関する長沼先生の本はこちら「敏感すぎる自分[…]
よく、HSPを批判されるときに突かれることですが、アーロン博士のHSPチェックリストの項目の曖昧さが、この微妙な問題を孕んでいます。
そこで大事な指標になってくるのが根っこにある4つの性質です。
復習を兼ねて(本書P68より引用)
D=深く考える
O=過剰に刺激を受けやすい
E=共感力が高く、感情の反応が強い
S=些細な刺激を察知する
個人的には、やっぱりこの指標は大事な目安になるかなと思います。
特に「E=共感力が高く、感情の反応が強い」は大きな違いかなと思います。
自閉スペクトラム症(ASD)も、DSM-5になってさらに適用範囲がスペクトラムに広くなっています。
あとこれらの分類は、全然違う土俵の分類であること、場合によっては自閉スペクトラム症と診断がついても、HSCの項目と4つのDOESが当てはまる人も、なかにはいるかもしれません。
超個人的な見解ですが、バリバリのASDの人の”深く思考すること”と、HSC(HSP)の”深く思考すること”は、よくよく聞くと質が全然違うのではないかと思います。
結び
HSC(HSP)の知名度が上がってくると、いろんな人がいろんな意見を言うので、議論が活発になるのは悪くない流れですが、その分いろんな思いが掻き立てられます。
わたしのなかでも改めて「HSPってなんだろう」と改めて考え直すことが最近あったので、明橋先生のHSC本は、ちょっと原点に戻るような気持ちになりました。
なにより視点が温かく、優しい。癒される本なので、子育てに疲れている方は、読むことで少しホッとしていただけると良いなあと思います。
関連情報
▽アーロン博士のHSC本の感想
ひといちばい敏感な子 子どもたちは、パレットに並んだ絵の具のように、さまざまな個性を持っている エレイン・N・アーロン著 明橋大二訳 1万堂出版アーロン博士による、HSC(The Highly Sensitive Child=ひ[…]
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