映画「天気の子」感想(※ネタバレあり)

初日に観てきましたよ。

というわけで、感想です! ネタバレあります。

普段映画って一回見たら満足なんだけど、もう1回観に行こうか真剣に検討するくらいよかったです。

昨日は興奮冷めやらずなかなか寝つけませんでした。

 

見どころ

やっぱり映像はピカイチに綺麗!

魅入ってしまうほどの美しさ。これって「本物っぽくて綺麗」なのではないのです。

「本物よりも綺麗」なのです。アニメーションだからできる映像美。

舞台は東京だから、東京の街並みがとてもよく描かれているんだけど、今回は「天気」というテーマも相成って空の描写も多く、とにかく秀逸。

かと思えば、須賀さんの事務所(兼自宅?)とか、陽菜ちゃんのアパートとか、家のなかの描写も個性的というか、ちゃんと細かいところまで描かれていて(これは前作でも思った)、ごちゃごちゃ感とか、女の子が住む部屋ならではの可愛い小物とか、視点が細やか。

 

そして、今回もRADWIMPさんが音楽を担当されているのも、やっぱり強力タッグ。

音楽が映画に彩りをさらに強めてくれる。

三浦透子さんの歌声もとっても素敵でした。

劇中歌は、グググっと感極まってきたところにさらにヒートアップさせてくれます。

 

総じて、新海監督の作品は、映像も音楽も演出も、そしてストーリーも、トータルの”見せ方”がとってもうまいなあと思いました。

映画のアニメーションの強みを、最大限に活用している。

現代のリアリズムを徹底的に追求しながら(映像だけでなく、SNSや電子機器の使われ方など現代の時代性がとても反映されている)、それでいてファンタジーがちゃんと存在している。

何もファンタジーは、過去の世界の物語ではないのです。ナルニアのようにタンスの奥の世界へ行かなくても、中世の世界でなくても、この現代でも、東京でも、ファンタジーの隙間はちゃんとあるんだよって教えてくれます。

 

主人公2人

主人公の背景が、あまり詳細に描かれていないので、なんで帆高は家出をしてきたのか? とか、結構曖昧です。でも、想像力で補うことや、合間の手がかりから推測はできると思う。なんというか、ちゃんと行間を読ませてくれる描き方だよね。

 

帆高くんの手がかりとして、彼がサリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」をわざわざ持ってきているのは、結構なヒントだと思う(ネットカフェでカップ麺の蓋がわりにしていた)。

 

家出してくるときって、持っていけるものは限られているから、ほんとうに大事だと思うものしか持ってこられないと思う。

 

たぶん具体的に「これが嫌だ!」で彼は家出をしてきたんじゃないんだろうな。

でも、もやもやといろいろ溜まって、息苦しくなったんじゃないかなあ。

 

帆高は、年上だと思った陽菜のことをずっと「陽菜さん」と呼んだり、途中から凪くんのことを「先輩」と呼び出してからは、律儀にずっと「先輩」呼び。

基本的に、真面目で良い子なんだろうなあと思います。

でも、こころが移りゆく時期。日の光を追いかけて、一回混沌としたところ(東京)へ入っていくことを求めた。

なんか「息苦しくなくなった?」の陽菜ちゃんの問いに「うん」と答える帆高が、とても意外そうに、でも実感を得ていたように感じました。

 

対する陽菜。

 

母親が病気で、祈るように病室で過ごしていて、風のないところで風が吹いて。

陽菜が、帆高に深く訊かないのは、優しさもあると思うけど、「人には聞かれたくないこともある」ってことを体感として知っているからだろうな。

だからアパートで、料理を作りながら、実に込み入った事情を話さない表面を流れるだけのさらっとした会話は、とっても深いところをあえて表面に出していない会話なんだろうなと思う。「うん」とか「そっか」の言葉の奥にあるもの。

実は中学生なんだけど、「もうすぐ17歳」と偽っても通ってしまうほど、たくさんの苦労をしてきた子。

 

天は神様の世界

生き物のように移り変わる空の表情がこの作品の見どころでもありました。

空のことをこれまでそんなに真剣に考えたことはなかったんだけど、改めて空の世界って不思議ですね。

「湖ひとつ分の水分が雲にあるんだから、これは何かの生命体がいてもおかしくない」(台詞はうろ覚えです…)という話は、面白いなあと思いました。

 

古事記では、人の住む世界を「地上界」(豊葦原とか、瑞穂の国などとも呼ばれます)と呼ばれるのに対して、空の上の世界は「高天原(たかまのはら)」「天上界」と呼ばれます。

古事記や日本書記では、豊葦原も神様はいるんだけど(国津神といいます。出雲で有名な大国主神は国津神の代表格)、空の上の世界は完全に神様の世界。

「お天道様」という言葉もあるように、天は畏敬の念を込めて呼ぶ世界です。

 

これだけ科学が進歩しても、人類は天気を操作することはできません。

せいぜい予測するだけです。だいぶ精度は上がってきたけれど、それでも完全とは言えない。

お天道様のことは、人の手に余ります。

 

神社のおじいさん(神主さんか宮司さんかな)が言っていたように、異常気象と呼ばれるものは、せいぜいここ100年の話です。

地球の長い長い長ーい歴史の中でいうと100年って一瞬です。いや、そもそも人類の歴史だってたかが知れている。

人間やいま地球上に住む生物は、たまたま現在の環境に適応している生命体なだけで、宇宙レベルの規模でいうと、ほんとう微妙な隙間に「存在させてもらっている」存在だと思う。

 

その空の世界を、お天道様の世界と繋がっちゃうって、すごいこと。

そして、天気をわずかでも変えてしまうって、人智を超えること。

 

だからこそ、その代償は大きい。

そして、それだけのマクロレベルのことなんだけど、だからこそミクロレベルで「わたし」「あなた」がとても大きな意味を持ってくる。

彼らがしでかしたことは、天の采配でいうと、些細なことかもしれない。

でも、彼らの心的現実世界では、それは、世界を変えてしまったことで、そしてだからこそ最後に「また会える」ことが、奇跡でもある。(これは、「君の名は。」のラストにも被る。彼らが再会できるのは、必然でもあり奇跡でもある。二律背反が成立する)

 

凪先輩

陽菜ちゃんの弟の凪くん。

小学生ながら、超ハイスペックです。

 

お母さんは病気だったし、お姉ちゃんとふたりで(この姉弟は父がいるのかいないのか謎です)、やっていくなかで培われたものと、もともと持っている能力と。

恋愛偏差値だけじゃなくて、場の空気を呼んだりとか、児相を抜け出すスキルとか、ピンチに駆けつける勘の良さとか

物語は凪先輩がいなかったら、成り立たなかったんじゃないか!

というレベルで凪先輩がすごすぎです。

 

小さいうちからこんなに器用だと、将来を心配してしまうのはいらぬお世話ですが。

この子、ものすごく大成するか、ものすごい犯罪を犯しそうだ。あるいは思春期にめちゃくちゃグレるか。

余計なお世話ですか、そうですか。すみません。

 

「君の名は。」の二人も、ゲスト出演

上映前から「君の名は。」の主役2人も出てくる情報がありましたが、バッチリ出ていました。

もっと宝探しのようにこっそりなのかと思ったら、バッチリとわかるくらいのサービスっぷりで出ていました。台詞もちょっとだけあります。

あと、密かに三葉の妹の四葉ちゃんもサービスで出ていました。(他にもいたかもしれないけど、わたしの認知力ではこの辺が限界)

 

瀧くんは、かっこいいお兄さんになっていました。あそこだけ尺が異様に長い(笑)。

こういうファンサービスってたまらないなあ。

 

物語と現実を混同しないでほしい

これは蛇足です。読んで不快な思いをされたらごめんなさい。

 

今年は梅雨入りが全国的に遅くて、わたしの住んでいる地域もまだ梅雨です。例年なら夏なのに、まだどんよりとした梅雨空。

ある意味、作品的にはそんな時候に公開というのはなんだか不思議な一致が起きています。

 

昨今、異常気象と言われる天候が多く、昨年も今年も、大雨が各地に甚大な被害を及ぼしました。この記事を書いているときも、台風の影響で大雨が警戒されています。

雨は降りすぎても困るし、降らなさすぎても困るのです。

 

この作品で描かれている「天気」や、帆高たちがしでかしたことを見て(未成年だけど犯罪だよね)、眉をしかめたり、「この表現はどうなんだ」と思われる方もいるかもしれません。

でも、これは「物語」です。リアリズムを描いた作品ではありません。ファンタジーです。

極めて現実に近い世界を描いているけれども、あくまでそれは物語を支える装置です。

 

物語は、わたしたちのこころに栄養を与えてくれるもの、癒してくれるものです。

「現実的にこれはやばいだろう」とか、「大雨でいまでも苦しんでいる人もいるのに」と、現実を混同されると、物語の居場所がなくなってしまいます。

 

 

ただ、実際に大雨などの災害の被害に遭われた方のなかには、本作を見てしんどくなったり辛くなってりする人もいらっしゃるかもしれません。(逆に、雨に対して否定的な見方をしていたけど、肯定的な側面を見出す人もいるかもしれません)

そういう方は、無理をせず、距離を取られることを勧めます。

作品そのものの問題ではなく、トラウマのためです。あなたが悪いわけでも、作品が悪いわけでもないのです。トラウマは、誰でも起こりうることです。特に、天災は、防ぎようがなくやってくるものです。場合によっては、治療が必要なこともあります。

 

 

たぶんこれをわたしが書いている時点で、わたしもちょっと雨が続くことに敏感になっています。

昨年の7月の雨が続いたときは、わたしの住んでいる地域は大きな被害はありませんでしたが、ずっと雨が続くことで川が決壊するんじゃないかと不安になりました。

「雨って、こんなに怖いんだ」と思ったことは、たぶんいまでも響いているんだと思います。

 

結び

面白い作品って、いろいろな視点から物語を考察できるところに醍醐味があると思います。

人によって、見どころポイントって違うし、違っていて良い。違っているから面白い。

 

わたしは、こころがすごーく震えるほどの感触がありました。その感触は今も残っています。

そういう体験があると、世界の見え方が少し、変わってきます。

ちょっとだけ、生きることが悪くないなと思えてきます。

 

関連情報

▽「天気の子」公式サイト

映画『天気の子』公式サイト

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