『風の歌を聴け』村上春樹

 

ある日、突然「そうだ、久しぶりに村上春樹さんの本を読もう」と思い立ちました。

最近は新しく読む本ばかりだったので(読みたい本は無限にある)、ずっと再読していなかった。

 

というわけで、何年振りかにやってきた春樹フィーバーにお付き合いください。

(いつまで続くかわかりませんけど……)

 

感想

読むの10年ぶりくらいじゃないかなあ。

言わずと知れた(物議を醸した)村上春樹さんのデビュー作。

 

いま読んでも、不思議な物語だなあと思います。

 

久しぶりすぎて、いろいろと忘れていました。

「僕」と「鼠」が登場するのは覚えていたけれど、ハートフィールドについての印象なんてまったく残っていなかったし(実はこの物語の大事なところを担っておられた)

指が4本しかない女性のこともすっぱりと忘れていました。

 

そして、なぜか物語は風のことを記述して閉じられているとばかり思っていたら、それはわたしの記憶違いでした。

人の記憶はかくも曖昧なものなのか。

 

 

でも読んでいて、当時感じたこの小説の空気感みたいなものは、なんとなく思い出したような気がします。

 

ゆっくりと時間をかけて、読みたくなる。

時間の流れが変わるなあと、感じたものです。

日々忙しく動いているなかで、指の隙間からこぼれ落ちてしまったものを、掬い上げるような感覚です。

 

 

タイトルにもなっている「風」について印象に残ったところを取り上げます。

ハートフィールドの作品の「火星の井戸」という作品の筋を主人公が物語のなかで記しています。

 

火星人が掘った井戸に潜った青年の話です。

井戸をあてどなく彷徨って、再び地上に出た青年が風と会話しています。

(蛇足ですが、井戸の着想の芽はこの頃からあったのかしらと思いました)

 

風が彼に向かって囁いた。

「私のことは気にしなくていい。ただの風さ。もし君がそう呼びたければ火星人と呼んでもいいです。悪い響きじゃないよ。もっとも、言葉なんて私には意味がないがね。」

「でも、しゃべってる。」

「私が? しゃべってるのは君さ。私は君の心にヒントを与えているだけだよ。」

(「風の歌を聴け」32より)

 

もうひとつ。印象に残った風の記述。

指が4本の女性と「僕」との会話

 

「ずっと嫌なことばかり。頭の上をね、いつも悪い風が吹いてるのよ。」

「風向きも変わるさ。」

「本当にそう思う?」

「いつかね。」

(「風の歌を聴け」36より)

 

何気ない会話のようにも見えるのに、なぜかとても大切なことが扱われているように感じる。

「風の歌を聴け」という題名が、とても効いてくるのです。

物語全体を通しての、”風”というセンテンスを扱っている箇所ってごくわずかなのに、だから読後感でどこか”風”(風の歌を聴け)が残っていたのです。

 

 

*       *       *

 

春樹さんの小説って、感想を書くのがむずかしい。

でも、多くの人に自由度が開かれている物語でもあると思います。

 

夢について考えるとき、その解釈は多義的であるように。

 

何気ない会話をしているように思うけれど、センテンスのひとつひとつに目に見えない「間」があるようです。

 

そして、そういうものを読んでいると、自分のこころのなかも、開かれていくような気がするのです。

言葉を変えると、こころのなかの井戸に潜っていくような、そんな不思議な感覚です。

 

結び

というわけで、しばらく村上春樹さんの本を読み進めてみようと思います。

いつまで続くのかわかりませんが、よかったらお付き合いくださいませ。

 

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