『これからの時代を生き抜くための文化人類学入門』奥野克己

だいぶ前に読んだ本の感想です。

 

はじめに:文化人類学とは何か

文化人類学って聞いたことはあるけど、具体的にはどんな学問なのでしょうか。

 

文化人類学という学問領域は、地球規模の時間軸を念頭に置きつつ、ここ一〇〇年くらいの地球上の変化の上に生き、あるいは生きていこうとする多種多様な人類の姿や、多種多様な文化を持つ人間の姿かたちを記録し、考える学問である、と定義できるでしょう。

(P14 第1章 文化人類学とは何か)

 

いま、わたしたちが生きている社会(例えば2024年の日本とか)だけで捉えるのではなく、もっと広い視野(大きくいうと地球規模の時間、ミニマムでも100年の変化、さまざまな文化)を見渡して考えていきましょうということかな。

 

この本では、大きく4つのトピックが設けられています。

  • 経済
  • 宗教
  • 人新世

 

この本のタイトルの冠につけられている「これからの時代を生き抜くための」という言葉にあるように

これからの時代を考える上での文化人類学的な視点からの考え方が書かれています。

 

社会が大きく移り変わろうとしている現代において、考え方の視野を拡げる1冊になってくれそうな本でした。

 

感想

ひとつひとつのトピックも面白いのですが、今回は全体の所感を述べたいと思います。

 

いかに自分の生きる狭い世界でものごとを捉えているか、を考えさせられました。

 

例えば、一夫一妻制が国や文化によって違うのは知っていましたけど、性の考え方はLGBTよりもずっと多様です。

産業革命以降、欧米が世界の先端を進んでいるようになっていたけれど、それすらも実は一面的な見方でしかない。

何が正しく正しくないかは、その社会や文化によって異なる。

 

著者の研究フィールドであるマレーシアのプナンの人々、本書で紹介されている他の地域の人々。こんなにも彼らの常識は、わたしの知る常識と違うのかと驚かされることばかりでした。

 

「知る」は「考える」ための第一歩。

 

たぶん、いまわたしたちが常識だと思っていることは、ここ100年(もしくは戦後数十年)で培われてきたものです。

そして、それは永久に続く普遍的なものではないのですね。

 

ここ20〜30年でも、社会は急速に軋みはじめている。以前の常識が通用しなくなってきたのは、もう随分前から言われていることです。

 

本書で取り上げられている(西欧から見た)未開地域の生き方を真似るのではなく(もちろんそれは無理があります)

 

「そういう考え方もあるんだ」

そこから、「じゃあ自分たちはどうしたらいいだろう」

に繋がるのかなと思います。

 

これまでの常識が通用しなくなってきたのなら、新しい枠組み(システム、考え方)を構築していくこと。

そのためには、広い視野で見ていくことが必要。

 

おまけ:「逃げ恥」(原作)のみくりとプナンの人々

著者がフィールドワークを行っているプナンの人は、ボルネオ島(マレーシア、インドネシア、ブルネイの3国からなる)に暮らす、人口約1万人の狩猟採集民(あるいは元・狩猟採集民)です。

このプナンの社会では、他人にものを分け与える「贈与の文化」があります。

一見するとプナンの人々は所有欲にまみれず、気前の良い人々です。

 

例えば、著者がフィールドワークのお礼に日本からおみやげを持参すると、それはお世話になる家庭の人に贈ったはずが、気がつくと村中の人に分け与えられます。

著者がお礼に贈った腕時計は、会うたびに違う人が身につけていることもありました。

 

プナン社会では、与えられたものをすぐさま他人に分け与えることを最も頻繁に実践する人物が、最も尊敬されます。

(P124 第3章 経済と共同体)

 

これは、プナンの人が生まれつき気前が良かったり所有欲がなかったりするわけではありません。

プナンの子どもたちは、小さい頃から個人的な所有欲が起こらないよう教育し育てられているからです。

 

そして、これはものだけに留まらず、知識や感情などありとあらゆるところにまで分かち合う文化になっています。

 

「逃げるは恥だが役に立つ」の漫画2巻で、みくりが風見さんとお話ししている場面を思い出しました。

 

 

〜簡単な解説〜

平匡さんと偽装結婚をしたみくりは、平匡さんの同僚の風見さんとの世間話で、「グローバル化社会のなかで、安い労働者を求めて結果的に国内の失業者が増える」ことに対して、「逆にものすごく狭い世界で商売する」という風見さんの意見に、みくりがあれやこれや思考します。

※前提として、みくりが派遣切りにあった失業者で(平匡さんと偽装結婚という名の(住み込みの家政婦的な)雇用契約を交わす)、社会的弱者の立場にいることがあります。

 

みくりが考えているのは「贈与の文化」よりは経済よりで、狭い世界のなかでモノを安く売るのではなく大切に扱いながら、雇用が成り立つ社会にならないだろうかということでした。

 

7巻では、平匡さんが転職先を探している最中に、沼田さんから紹介された会社のシェアリングサービスに興味を持ちます。

それはどちらかというと「これからの時代に新たに生み出される仕事」で、平匡さんはそこに惹かれてチャレンジすることにしました。

 

改めて漫画を読み返してみるとプナンの「贈与の文化」に特に重なるわけではなかったのですが、「発想の転換」みたいなのが思い出されました。

(「逃げ恥」の場合、いろいろ模索しながらも最終的なみくりの着地点は就職、結婚、出産とこの時代のスタンダードに落ち着いていくのはまあ少女漫画的ですけれど。。。)

 

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