ずっと前に、出版された「ライフシフト」のほうも持っています。
何かに触発されて買ってそれはそれで衝撃的だったんだけれど、どこかで自分にはまだ遠いことのように感じて、「いつか読み返さないとなあ」と思いながらずるずると日々だけが流れていきました。
今回2冊目が出版されたと知って、しかもそれがコロナという近接身近な世界規模の出来事と相成って、読んでみたら全然自分から遠いことじゃなかったことに今更ながらに気づいた。
もちろん現実的にむずかしいところはまだまだたくさんあるんだけど(著者は個人だけでなく政府・企業・教育に対しても提言しています)
移りゆく世界や社会に目を向けていくこと。
それは現実をただただ嘆くよりもずっと建設的ではないかと思います。
というわけで、本書はとても分厚くて全部は拾いきれませんが、気になったところを3つピックアップしてみます。
前作からのおさらい:ライフシフトとは?
はじめに、「ライフシフト」という言葉に耳慣れない方のために簡単に説明しておきます。
これまでは、3ステージの人生を送るのが当たり前でした。
- フルタイムで教育を受ける段階(概ね20歳前後まで)
- フルタイムで仕事に携わる段階(卒業後に正社員として就職、定年までの終身雇用。結婚していることを前提とすると、夫婦で会社と家庭それぞれの役割をフルタイムで担う)
- フルタイムで引退生活を送る段階(定年退職後に年金生活に移行)
すべての人がそのパターンに当てはまるわけじゃないけれど、多くの人にとってこれが当たり前だった。
これが、今当たり前でなくなってきている。
理由はいろいろあります。
平均寿命が伸びたこと。
働き方が多様になったこと。(良くも悪くも)
テクノロジーが急速に発展して職業そのものの変化が急速に起きていること。
女性の社会進出が一般的になったこと。
日本だと、格差が広がったことも含まれるかもね。
著者は、これからの時代はわかりやすい3ステージではなく、人によって歩み方の変わる「マルチステージ」になっていく(すでになりつつある)と述べています。
『具体的に言えば、3ステージの人生ではなく、マルチステージの人生が当たり前になるだろう。この変化は、「仕事とは何か」「どのような働き方をするのか」「どのようなキャリアの道筋を描くのか」「老いるとはどのようなことなのか」といった問いに対する答えを根本から変える。
(P58 第2章 私たちの開花)
決して「これから寿命が伸びて100年生きるのが当たり前になるんだからそういう生き方を考えよう」というだけの本ではありません(笑
いま、わたしたちは時代の変遷のさなかにいるんだと実感しました。
コロナでそれがより浮き彫りになった感じがします。
もう、ふつうに学校行って就職して正社員で働いて、定年まで同じ会社で終身雇用で働く生き方は、破綻してきている。
そうじゃないレールに乗っている人もたくさんいる。
高齢者の概念も変わってきている。年金もどんどん減っている。
社会が生きにくくなっているんじゃなくて、既存の仕組みに現代の在り方が合っていないんだ。
社会全体がアップデートする必要がある。
個人も、政府も、企業も、社会そのものが変わらないといけない。
本書はそのための考え方の一助を提言してくれています。
学習と移行
わかりやすい3ステージ型の人生からマルチステージ型の人生に「ライフシフト」するのなら、何よりも大切なのは
①探求者であること
②学び続ける姿勢
このふたつが大切になります。
そう。もはや学校を卒業したら勉強しなくていいは古い!
むしろ一生学び続けようぜというハングリー精神が必要になってくる。
あ、そこで回れ右して去っていく人、お待ちください。(そんな人はこんな記事読まないか)
「年取ったら勉強しても意味ないよ」と思う方、朗報です(朗報?)。最新の科学知見はいくつになってからでも学習を肯定します。
「最近の研究によれば、人の頭脳は年齢を重ねても、アリストテレスが考えていたよりはるかに強い可塑性を維持し続けるらしい。人は何歳になっても学ぶことができるのだ」
(P134 第4章 探索ーー学習と移行に取り組む)
「毎日忙しくて勉強する時間なんてないよ」という方もいらっしゃると思います。もちろんです。わたしも最近サボりがちです。
場合によって、新しいことを学ぶために一時的にサバティカルな期間を設けることも今後は必要になってくるかもしれません。
「神経科学の研究から明らかなように、脳が健康な状態にあってはじめて学習が可能になる。脳が新しいことを吸収して学べる状態でなくてはならないのだ。脳が人間特有の複雑な活動(ものごとを学んだり、直感や創造性を発揮したりするなど)をおこなう能力は、その人がどのような感情を抱いているかに大きく左右される。強い不安やストレスを感じている人の脳は、変革と学習の能力が大きく減退する」(P137 第4章 探索ーー学習と移行に取り組む)
この辺は、ストレスマネジメントや健康的な生活を送ることも影響してきます。
政府や企業が、大人になってから学ぶための仕組みを保証してくれることが望まれます。
フィンランドでは、この仕組みはすでに結構進んでいるようです。
長い目で見ると、学びは職業選択の可能性が広がり、属するコミュニティも広がっていきます。
一人ひとりが主体的に生きることによって、より創造性が拡がり、社会にも還元されていきます。
人と人とのつながり
AIが進歩しても、AIによって代替されないもの。むしろ強化されるもの。
それが、人と人とのつながり、関係性です。
AIが多くの仕事を代替してくれるかもしれないけれど、マネジメントや人と人の信頼関係は代替できません。
例えば大切な人と過ごす時間、人と人が出会うことで生まれるもの。
「ライフシフト2」では、新しい夫婦関係についても提言しています。
現在ゆっくりと亀の子のスピードでありながら日本でも男性の子育て参加が進められています。
10年前だと、まだ机上にもあがらなかったことですよ。
もはや「家事や子育ては女性がするもの」という性的役割は崩壊しつつあります。
日本は超遅れているけれど、世界を見渡せば女性の国の代表もめずらしくなくなってきました。
すべての職業がそうだとは言わないけれど、多くの職業で性別によって能力の優劣は決められないことが証明されつつあります。
女性がもっと社会に出ることが当たり前になれば、当然のように子育て・夫婦関係もマルチステージ入りです。
「しかし、時代は変わった。よい夫婦関係の本質は変わっていないとしても、社会規範が人生の選択の指針にならなくなったのだ。そのため、マドカとヒロキ(本書の登場人物)は、自分たちで話し合い、お互いがどのような責任を担うかを決めるために、ひときわ多くの労力を割かなくてはならない。つねに話し合い、コミュニケーションを絶やさないことは、このタイプのカップルの大きな特徴でもある」
(P191 第5章ーー深い結びつきをつくり出す)
マドカとヒロキは、本書に登場する若者カップルです。
これからの時代をどう生きるかの、若者モデルとして登場します。
(ちなみに、本書には他にも、さまざまな年代のモデルが登場します)
夫が仕事をしてお金を稼ぎ、妻が家庭を守る時代も変わろうとしています。
これは先の3ステージと同様にわかりやすいものでした。
わたしの世代は、女性も働いている人が多いけれど、男性に比べると仕事の量をセーブしたり、子育てがしやすい仕事に転職したり(大抵給料もキャリアも下がる)、女性が負担をして子育て+家事+仕事のパターンが多い印象。
子育てのあり方も多様になってそれを受け容れられる社会が、少しずつスタンダードになっていくといいな。
先ほどの引用の続き。
「その話し合いを成功させるためには、相互の信頼関係が不可欠だ。信頼は、放っておいて自然に生まれるものではない。パートナー同士の関係のあらゆる側面に言えることだが、これも努力して磨いていく必要がある。相手を信頼し、同時に自分も信頼に値する人間にならなくてはならない。相手の言葉や振る舞いを信頼できると思えることが重要だ。毎日、相手の言葉に耳を傾けよう。そして、重要な問題は真剣に話し合い、問題を解決できるまで粘り強く対話を続けるべきだ」
(P191 第5章ーー深い結びつきをつくり出す)
これも、既存の在り方のアップデートだなと思いました。
学習もそうでしたが、夫婦関係も、自分(と相手)がどうしていくかを主体的に考えて行動(対話)することが重要になってきます。
これは、わかりやすいモデルに沿って生きていたこれまでの3ステージ型の生き方とは対極にあります。
正直、人によってはすごく面倒でしんどいかもしれません。
でも、自分で自分の生き方を創造することのできる、とてもクリエイティヴなものでもあります。
ここでは主に夫婦について取り上げましたが、これからはもっと多様な家族や共同体のかたちが増えていくんじゃないかな。増えていくといいな。
おまけ:わたしの場合
※個人的なことが書いているので興味のない人は読み飛ばしてください。
前著を読んだときにどこか自分にとって遠いなと思ったのは「そうはいってもわたしは100年生きるつもりはないし」というところがありました。
でも、今回本書を読んで、全然自分に遠くなかったことに気づきました。(100年生きるつもりは、今もありません。そんなに生きんでいい)
というのも、わたしはとっくの昔に3ステージ型の人生から脱落してしまったからです……
だからマルチステージ型の人生に対して拒否感はない。ぬくぬくと安心できる終身型雇用なんて、わたしには縁のなかった世界だから。(終身型雇用の世界にいらっしゃる方には、もちろんその方なりのご苦労はあると思います……)
別にそのつもりはなかったんだけど、わたしはわたしなりに自分の生き方を模索して、ライフシフトしていたんだなあと思いました。
美談に聞こえるかもしれませんが、全然そんなことはなくて、真っ当な生き方(本書でいう3ステージ型)ができなかった後ろめたさはずっと抱えてきました。
今の自分の生き方をとりあえず肯定してあげようと思いました。
将来に対して不安がないかといえば全くそんなことはないんだけれど。不安だらけですけど。
ほんとうは仕事を増やして収入を増やせるといいんだけど、仕事を増やすと自分がボロボロになって人生が絶望だらけの苦行になってしまうので、今は自分を大事にするペースをなんとか維持しています。
こういうところは、HSP的な気質も大いに影響しています。
ただ知的好奇心は、若い頃よりも強くて、もっと色々学びたいなと思っている。
今の仕事は好きだし楽しいけど、仕事の世界だけでなくもっと違う世界の人たちとも交わりたいなと思っている。
だから、もっとマルチステージに向けた幅を広げたいなと思いました。
新しい世界に飛び込んでいくのは勇気のいることだけれど(わたしはそういうのは苦手なんです;)、本書を読んでわたしも探索者でありたいと思いました。
「好奇心をもち、未来を見据えて想像力を発揮することは確かに重要だが、社会的開拓者であるためには、それだけでは十分でない。行動を起こす決意と勇気も同じくらい重要だ。テクノロジーが進化し、長寿化が進展するなかで、旧来の働き方、キャリアの道筋、教育や家族のあり方は、ますます持続不可能に見えはじめている。そこで、これまでの行動を変える必要があるのだ」
(P52 第2章 私たちの開花)
わたしにとっては、これからのキャリアや生き方を拡げてみるための材料をいただいた感覚です。
少し、視野を拡げるとでもいうのでしょうか。
もちろん政府や企業など、ハード面での変革も必要になってくるけど(そこは個人の力ではどうしようもできない)、個人でもそこを見据えて生きていくことを考えて。
長くなりましたが、この本にはいろんな世代のいろんなモデルが登場します。
読む人によって、どこかしら刺激を受けると思います。
刺激を受けたところから、考えていくことは探求者への第一歩ではないでしょうか。
結び
今回の感想では、前向きなところをメインに取り上げました。
現実は本書で書かれているように順調に試行錯誤できるわけではないことも多いかと思います。ハード面は日本はほんとうに厳しい。
でも、これまでと少し違う視点を持つきっかけになれば良いなと思います。
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