2018年、2019年と幸福度ランキングで世界1位になったフィンランドについて、フィンランドの大学で修士号を取り、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる著者が解説している本です。
個人的にフィンランドは興味のある国だったので、タイトルに目が惹かれて読んでみることにしました。
フィンランドあるある
日本では考えられないことがたくさんあります。
- 残業はほとんどしない。(「午後4時に帰宅する」のは8時~4時勤務が多いから)
- 1日2回のコーヒー休憩が法律で決まっている
- 多くの人は必ず4週間の休暇を取る。
- タテ関係がなく、上司ともファーストネームで呼び合うフラットな関係
- 産休育休制度も充実している。男性も8割は育休をとる。
- 睡眠は7時間半以上
- サウナ大好き民族
- 学費は無料
と、ざっと挙げただけでもこれだけ。
なんか日本だと信じられないことだらけです。
でも、良いことづくめというわけではないし、決して最初からフィンランドも順風満帆というわけではなかった。これでフィンランドの全てがわかるわけじゃないけれども、良いところだけじゃなく、多角的な視点から書いてくれているのが本書の魅力です。
でも、それでもあまり余って「フィンランドから学べることはあるんじゃないか」と思わせます。
うん、すでに著者の思惑に乗っかっている感じもありますが、まあいいや。
日本とフィンランドの違い
この本でフィンランドのすべてがわかるわけではないし、フィンランドと日本の違いもたくさんあります。文化とか、国の歴史とか、そんなの言い出したらキリがない。
しかししかし、個人的に真っ先に思い浮かぶのは「人口規模」です。
日本は少子化が懸念されていますが、それでも人口約550万人のフィンランドに比べると、約1億2千万人は、圧倒的に多いです。(ちなみに面積はほぼ同じくらい)
日本は大家族を抱えるようなもの。
一方フィンランドは少人数の家族を抱えるようなもの。
例えば1~2人の子どもを育てるのと、10人の子どもを育てるのでは、親の体力も子どもへの配慮もかけられるお金も全然違います。
だから、全体的に少人数だからこそ回せる社会というのも、やはりそこには影響していると思います。
フィンランドの学校が少人数教育を実践できるのも、日本にそのまま置き換えることはやはりむずかしいのでしょう。1人の先生が10人を見れたら、40人を見るよりも手厚くできるけど、教員の数も予算も全然足りないからです。(日本はやっと35人学級が進み始めているところ)
これはフィンランドだけでなく、社会保障制度が行き届いた北欧諸国すべてに言えることでもあります。
全体的に、少数精鋭。
でも、エッセンスというか。
フィンランドから学べることはきっとあるし、まず個人レベルからやっていけることもあるはず。
これは参考にしてみたいと思えることを取り上げてみました。
本書から
ウェルビーイング
フィンランド人はウェルビーイングという言葉をよく使い、重視する。ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念だ。
(P77 フィンランドの仕事文化に欠かせないウェビーイング)
ウェルビーイング(Well-Being)が仕事をする上で大切な概念だという話から始まっていますが
読んでいてつくづく思うのは、フィンランド人のパフォーマンスの高さ。
単に仕事の成果だけを求めるのではなく、ワークライフバランスをとても大切にする。
そのために、実に効率化も徹底的にする。上司とも率直に話し合う。会議も無駄を省く。休みはしっかりとる。そして、新しいことを学ぶ姿勢を厭わない。
それらは巡り巡って、結局仕事の質、生産性にも影響してくる。
会社もそれを知っているから、働きやすい環境を設定することに努力を惜しまない。
長期休暇を取るのは、心身をリフレッシュさせることが、良い仕事のパフォーマンスに繋がるとわかっているから。
緩むときと、ビンビンに張るときのバランスがとても良いのです。
一人ひとりが自分の人生を設計する
義務教育を終えたころから、道は一人ひとり違い、勉強するのも、社会に出るのも、生活も皆一斉にスタートではなく、自分次第。社会人から学生に戻る人もいるし、家族を早く持つ人、後から持つ人、人生設計は千差万別、誰かと比べることは困難である。
(P173 人生設計もみなそれぞれ)
日本と違って、一斉の進学、一斉の新卒採用というのがこの国はありません。
これってとても自由で良いなあと思うんだけど、逆にいうと個人の采配、自分の責任でやって行くことがとても求められている社会。
わかりやすいロールモデルがないから、自由度は高いけど、離職率や失業率も高いのです。
でも、失業中も次の仕事に向けてステップアップするために新たに学んだりとか、そういう学びの姿勢も多いし、それに向けての門戸が開かれているのも良い。
日本は昔と違って、一度就職して定年まで働くというスタイルが定番でなくなってきました。
しかし、じゃあ多様なあり方が認められているかというと、一旦正社員のルートを外れると派遣や非正規雇用で低所得者が増えて格差が広がったという、あまり明るくない感じもあります。(ちなみに、わたしもどちらかというと、そっち側の人間です……正規ルートから外れまくっているからね)
国レベルの社会の仕組みが安心できるものではないから、単純に比較はできないんだけれど
自分で自分の生き方を決めていくこと、生涯学び続ける姿勢を持つこと、新しいことにもチャレンジすることは、むずかしいけれどとっても素敵なことだなあと思いました。
もちろん、そこには自分で責任を引き受けるのもセットですが。(自由は責任が伴うものだと思うの)
社会の現状に文句を言うだけで何もしないのも、
じゃあ自分はどうしたいのかそのために今何ができるのか何をしたいのか、そのために行動することも、
どっちを選ぶかは、その人次第です。
一人の時間を楽しむ
フィンランド人は一人の時間も楽しむ。パーティー好きのフィンランドの友人がある日こう言った。「孤独と、一人でいることは違うの。一人でいること=孤独ではなく、静かに一人の時間を持って深呼吸することは、誰にでも必要なんだと思う。それは決してネガティブなことでもなくて、むしろ心地いいこと。だから私も時々一人になって、深呼吸してのんびり過ごす時間を持つようにしている」
(P191 名刺の代わりにがっちり握手)
フィンランド人は、あんまりガツガツ行く国民性ではないとのことです。
どちらかというと控えめで、ちょっと日本人に通じるところもあります。(細かいところを見ていくと違うかもしれないけど)
ひとりでいることが、孤独ではなく、一人の時間も楽しめるのは素敵だなあと思います。
なんていうか、ひとりでいること=寂しい人とか、周りからどう思われているかとか、そういうことを気にするのが馬鹿らしくなっちゃいますよね。
わたしはひとりでいる時間がとても大切で、そういう時間を持てるから友人や家族と一緒に過ごす時間も楽しめるんだと思います。
もっと自分のひとり時間を心地よく楽しめるようにしたいなあと、ますます思うようになりました。
個人的には、それもウェルビーイングのひとつではないかと思います。
本書から学んだこと
単純に社会や会社の仕組みに「羨ましい!」と思うことは、やっぱりあります。めちゃあります。
でもそれよりも感じたのは、本書の描かれているフィンランド人のパフォーマンスの高さ、あらゆることに貪欲な姿勢。
あんまりたくさんのことができない生産性の低い身としては、羨ましいを通り越して「いや、わたしには無理だわ」と思うことのほうが多かった。
でも、それでも学べることはたくさんありました。
「ウェルビーイング」を大切にすること。仕事も休みも、生活全体を自分でコントロールしていくこと。そのためにどこを省き、何を効率化させるか。
組織のなかで働いていると、思うようにいかないことはもっと多いと思いますが
それでも、自分の人生は自分で選び設計していくんだということは、とても大切な気づきです。
自分を、人生を居心地よくさせるためには、まず自分からなのだと思います。
結び
フィンランドは「オープンダイアログ」という、統合失調症の治療法としてこれまで考えられなかったアプローチを初めて実践した国でもあります。
本書を読んで、納得。
▽オープンダイアログの本
▽この本を書かれた精神科医斎藤環先生の対談の本の感想はこちら(宣伝)
本書は、精神科医の斉藤環先生と、歴史学者の與那覇潤先生の対談集です。 與那覇先生は双極性障害の経験から患者的立場と歴…
主体性が重んじられるというか、主体性を持たないとやっていけないお国柄では、患者の思いを含めてみんなで率直に話し合いながらやっていこうというのができる土壌があったんだと思う。
オープンダイアログについては、まだまだ勉強不足なのですが、もうちょっとしっかり勉強してみようと思いました。
あと、もっといろんなことを学んでみたいなと本書を読んで思いました。
この辺は、人生100年時代にも通じることかもしれない。
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