年明け最初の本の感想は、またしても梨木さんの本になります。
はじめに
昨年に紹介した「炉辺の風おと」でも紹介されていた本です。出版されたのは最近ですが、表題は2015年に『僕は、そして僕たちはどう生きるか』の文庫化の記念に東京のジュンク堂書店池袋本店で行われた講演がもとになっています。
若い方に向けて平易な言葉で語られています。
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実はタイトルを見たとき、ちょっと「うっ」となって一瞬読むのを尻込みしました。
ハウツー的なものが出てきたらやだなあと。
しかし、そこはやはり梨木さんらしい切り口で語られています。
つまり、押しつけがましくなく、梨木さんなりの考えを提示してあとは自分で考えてねという感じ。
わたしは梨木さんの切り口が好きなほうなので、割と抵抗なく読めているのだけれど、人によっては違う感触を得るのかもしれない。
そういう人は、きっとそもそもこういう本は読まないだろうけど、あえてそういう人にも読んでもらいたい。そして、そこから生じた違和感を、ぜひ言語化してほしい。
そういう積み重ねが、実はとても大事なのではないかと思ったからです。
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印象に残ったところをいくつかピックアップしていきます。
言葉を選ぶ
自分の気持ちにふさわしい言葉を、丁寧に選ぶという作業は、地味でパッとしないことですが、それを続けることによってしか、もう、私たちの母語の大地を豊かにする道はないように思うのです。(中略)群れのコミュニケーションの大きな柱は、やはり言葉なのです。もし自分の気持ちと違う言葉を言ってしまった、と思ったら、できるだけ早く、そのことを相手に伝えた方がいい。
(P19 日本語について)
ごく基本的で当たり前のことだけど、それでいてとてもむずかしいこと。
わたしもこうやってブログで日々文章を書いています。
言葉を選ぶってほんとうにむずかしい。うまく使えていないなという自覚があります。
いわんや人に対しては、もっとむずかしいなと思います。
相手に自分の気持ちを伝えること。わかってもらえるように言葉を選ぶこと。間違ったら、それも伝えること。
言葉と連想するだけで、いろんなものが浮かんでくる。
人が人たらしめるものに、言葉があります。言葉があるから思考が生まれる。思考から文化が生まれる。
チーム・自分
そう。あなたのほんとうのリーダーは、そのひとなんです。(中略)自分のなかの、埋もれているリーダーを掘り起こす、という作業。それは、あなたと、あなた自身のリーダーを一つの群れにしてしまう作業です。チーム・自分。こんな最強の群れはない。これ以上にあなたを安定させるリーダーはいない。これは、個人、ということです。
(P28 あなたの、ほんとうのリーダー)
わたしが本のタイトルを見てまず「うっ」となったのは、「『ほんとうのリーダーってこんな人のことを言うんだ』みたいなことが書いてあったら嫌だなあ」と思ったからです。
まあ、あんまり梨木さんらしくないですよね。そんなことなかったです。良かった。
でも、この切り口は想像していなかった。良い意味で裏切られた。
そうではなくて、リーダーを考えるときにまず軸になるのは、”群れのなかのリーダー”ではなく、”群れのなかの自分”。
まず自分軸から考えましょうという話。
「チーム・自分」という言葉、良いなあと思いました。
トップダウンではなく、ボトムアップの視点から考えていくこと。
もちろん群れを動かす共同体がどう機能しているかは大事です。
でも、個人ではどうしようもないことってある。それで群れを批判して生きていくよりも、じゃあ自分はどう生きていきたいのか、まず自分ができる最善を探して行動していくこと。
リーダーというと、その人(リーダー)にただつき従っていくという受動的なイメージが浮かぶかもしれません。
でも、まず、わたしのなかのリーダーはわたしなのです。そうすると能動的だよね。
考えることをやめない
「え? そうかな?」と思ったことを大切にする。それがあなたらしさを保っていく。(中略)「え?」と思ったことを大切にしましょう。すぐその場で反対を表明する勇気がなくても、です。(中略)それは「チーム・自分」の抱える課題となります。
(P41-42 あるテニスの試合で起こったこと)
自分で考えるためには、そのための材料が必要です。その材料となる情報をまず、摂取しなければなりません。でもその情報もすべて鵜呑みにするのではなく、自分で真剣に向き合って、おかしいと思ったらこれはおかしいんじゃないかと、疑問に思わなければならない(中略)つまり、その情報が出てきたところの事情を想像する力もつけなければならない。
(P35-36 鶴見俊輔さんのお話から)
実は、この本の感想を書く前に見送った本があります。
時節的に、いま出すのは穏当ではないなと判断しました。
またタイミングを見て更新したいと思っていますが、その本も終盤で「深く考えるきっかけを与えてくれた」と締めくくられていました。
何が正しくて間違っているかわからない。人によってもそれは違う。
ならば、考えることをやめないこと。
「あれ?」と思ったら、そこから考える。自分なりの考えをかたちづくる。そのために、いろんな情報に触れてみる。
自分の考えをかたちづくるには、言葉の洗練が必要。でも、むずかしく考えなくていいと思う。間違ったら、またそのたびに修正していけばいい。日々試行錯誤。アップデートの繰り返し。
そして、その根本をつくるのが「チーム・自分」。めぐりめぐって、考える作業は「チーム・自分」を強化することにもなる。
おお、なんだか繋がった感じがしました。
今回は、”考えること”に特化してみましたが、「チーム・自分」っていろんなところに使えると思います。
例えば、自分を大切にするのも「チーム・自分」だと思う。
「チーム・自分」を支えるためには、日々健康的に生きるとか、身体を作るとか、そういうのも含まれますよね。
100人いれば、100通りの「チーム・自分」があります。
『君たちは〜』から、『僕は、そして僕たちは〜』まで
吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』に寄せた文章も、本書にはおさめられています。
梨木さんがいかに『君たちはどう生きるか』が好きなのかがよくわかる。
好きだからこそ、梨木さんなりの回答として書かれたのが『僕は、そして僕たちはどう生きるか』なのだろうと思う。
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『僕は、僕たちはどう生きるか』は、けっこう「ん?」と思わせるところがあります。
『君たちはどう生きるか』のほうが、個人的にはシンプルでわかりやすいメッセージ(それでいてちゃんと奥行きがある。やっぱり良書です)で描かれていると思う。
『僕は、そして僕たちはどう生きるか』は、好き嫌いの分かれそうな本でもあります。
でも、そういう本に触れてみてどんな風に感じるかを”考えてみる”のも面白いのではと改めて思いました。
結び
梨木さんの本を読むと、背筋がピンと張る印象があります。
わたし自身は、基本真面目なんだけど適当なところもあるので、柔らかくいろんなものと接しつつ自分軸はしなやかに持てる人でありたいなというのが理想です。
まあ、それはともかく。
「チーム・自分」という言葉、いいですね。
今年は「チーム・自分」で色々やっていきたいなあと思いました。
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