車から見た人間社会「ガソリン生活」伊坂幸太郎

 

このあいだ初めて著者の本「逆ソクラテス」を読んで、「うわあ、なんだ。これめちゃくちゃ面白い!」と興味を持った人です。

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感想は書かなかったんだけど、そのあと「ホワイトラビット」も読んでまたしても2回目の「なんだ、これめちゃくちゃ面白い!」と体験。

 

 

というわけで、著者の本は3冊目になります。

いまのところ3冊ともはずれがなかった。今回も「めちゃくちゃ面白かった」でした。

 

感想

車の視点から描いたユニークな切り口の本。

望月家の自家用車「緑のデミオ(通称“緑デミ“)」が物語の主人公です。主人公というかストーリーテラーというか。

 

車の視点からいろんなことを語っているのがほんとうに面白い。物事の喩えも車から発しているのも笑いが溢れるほど面白い。

そして、車だから、物語の動きは「車のなかや周辺で起こったこと」と「車同士の情報網(車には車の社会というものがあるらしい)」からしかわからないのも面白い。

 

面白いばかり連呼していますが、いやほんとうに面白かったです。

 

緑デミと、お隣のザッパ(古いカローラ)とのやりとりも微笑ましくて好き。

それでいながら、望月家をはじめとする人間たちのストーリーや底辺に流れる世の中の悪(悪意のあるもの)の描き方も秀逸です。

物語のなかでは最年少の小学生ながら最も聡明な享くんはピリッとした香辛料的な少年です。(こういう子好きだなああ)

 

車を持っている人にとっても親しみが持てるけど、車に興味がなくても面白いだろうなあと思う。

そして車からの視点で描かれているけれど、それは舞台装置にしか過ぎなくて、でもこの舞台装置が妙に効いているのです。

 

最後のほろっとするところまで。完璧じゃないですか!!!(そんなうまい話があるんか)

 

と、書きながら全然感想になってないなあと我ながらびっくりしています。

感動が突き抜けるとわたしは言葉になりにくいのです。すみません。

 

車について私見

※ここから先は自分の車について語っています。興味のない方は読み飛ばしてください。

 

「緑のデミオ」くんを通して車から見えるヒト社会が映し出されていて、それはそれで興味深いけど、こうやって車同士が独自の社会を築いていると想像するのも楽しいなあと思いました。

うちにももう10年くらい乗っている愛車があります。

 

我が家は、ずっとノーマイカー一家でしたが、兄が免許を取ってはじめて我が家に車がやってきました。

新車にこだわって、家族みんなが乗れるようにと兄が選んだ車は、トヨタの緑のカムリでした。(我が兄ながら、20代にしては渋い選択をされた)

当時は嬉しくて嬉しくて、よく助手席に乗せてもらいました。

 

その後、兄が家を出て我が家から車はなくなったし、わたしも免許を取るつもりはなかったんだけど(当時友人が「とりあえず免許を取っておこう」と大学生のうちに免許を取って、そのままペーパードライバーになったのと対照的)

いろいろあって就職するときに「これは車通勤がいいから免許を取ろう、車を買おう」となりました。

その就職先は結局3年で辞めてしまったんだけど、そのきっかけがなければ、わたしはいまでも車を持たない人生を歩んでいたと思う。

 

わたしより100倍車に詳しい兄上からの「買うなら新車にしなさい。絶対大事にするから」という助言に従って、はじめて買った車は新車の軽自動車でした。悩みに悩んで、自分がこれがいいというものを選びました。

当時の自分からすると(いや、いまでも)軽といえど新車は人生はじめての高い買い物だったけど、このとき兄の助言に従って妥協しなかったのは、結果的には成功でした。

もう10年くらい乗っているけど、いまでも大好きです。愛着があります。

 

機械音痴なのでメンテナンスは基本的に専門の人に任せているのですが、「あのとき妥協しないで良かった」と思います。

そして、通勤で使ったのは3年だけで、普段は買い物や遠出の旅行のときくらいしか使っていないのですが(交通の便が良いところに住んでいるので、車より電車のほうが便利なのです)

車がなかったらできなかったことがあります。

 

副産物は、身体の弱った両親を助けられたこと。

父が亡くなる前の年、父を交通の不便な叔父のところへ泊まりに行くのに何度か送って行ったのは、あのときわたしにしかできなかった親孝行だといまでも思っています。当時はしんどくて死にそうだったけど。(HSPさんは貴重なお休みの日がなくなると致命的なのです)

足の弱った母の日常の買い物や、旅行に付き添えるのも車があるから。

 

車って維持費がかかるし、住む地域によっては必要不可欠なものではないけれど、そういう意味で、わたしは縁がなければ絶対に持たなかったと思うけど、車があって良かったと思います。

もしこの物語のように車に言葉が喋れるのなら(人間には届かないけど)、うちの子もずーっとここ10年見守ってくれていたんだろうなあと思います。

 

残念ながら走行距離はまだまだ全然でむしろもっと乗ってあげたいくらいなんですが、まだしばらくは乗り続ける予定なので、大事に乗ってあげたいなあとこの本を読んで改めて思いました。

幸いにして大きな事故もなく、燃費も良いよくできる子です。

軽自動車の大きさも、わたしにはちょうど良いのです。

 

結び

なんか本の感想よりも自分の車語りになってしまいましたが、たぶんこの本をきっかけに車についてあれこれ連想が膨らむ人はきっと多いはず。

そして、車だけでなく物語に流れる社会的なテーマもとっても興味深いです。少しミステリ仕立てなストーリーも、面白い。

 

一冊の本からいろいろな面白みが拡がるのは、良書の証です。

伊坂幸太郎さん、3冊とも当たりだったのでしばらく読み進めてみようと思います。

 

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