実はこれまで賞を受賞された作品というので読んだことはなかったのだけれど、今回は「あ、読んでみようかな」とめずらしくミーハー心が働いて読んでみることにしました。
というわけでお恥ずかしながら窪美澄さんの作品を読むのも初めてのへっぽこ初心者です。
初心者が適当につらつら感想を書いています。お許しください。
※本編の内容に触れています。未読の方はご注意ください。
「夜に星を放つ」感想
単行本のタイトルが秀逸だなあと思いました。
短編集です。「星(星座)」が共通テーマとして描かれています。
もうひとつ共通テーマがあるんだけど、それは最後のまとめで取り上げますね。
真夜中のアボカド
コロナ禍に入った世界のお話。
コロナあるあるが描かれていて「うんうん。そうそう」と頷く。
マッチングアプリとか、今どきなものが登場する。そこでの駆け引きとか、相手の見えなさとか、今だからわかる温度感みたいなのが、きっとある。
でも、根底にある人と人が出会うことで生じるいろんな気持ちの揺れ動きは普遍的なものでもあって。
寂しさから揺れ動き、こころがキューっとなるけど、それでも前を向いて生きていこう(ひとりでも)という感じが、種から育つアボカドくんに凝縮されているようでした。
麻生さんの一見女性慣れしてなさそうな装いが、実は奥さんが妊娠中にも関わらず別居してマッチングアプリを使いこなし、いざ奥さんと生まれた我が子を見たらそっちに戻るといういかにも最低な下衆野郎だったのは、綾ちゃん騙されなくて良かったねえとしか言えない。
村瀬くんはなんともえらいなあと思いました。弓ちゃんの代わりになる人はいないとちゃんとわかっている。寂しいからとくっついては、結果的にどちらも傷つくとわかっている。
綾ちゃんも村瀬くんも、寂しさを抱えながら、でも幸せになってほしいなと思いました。
銀紙色のアンタレス
夏男によるひと夏の恋。
清々しいほどに夏大好きな夏人間の真くんに、夏に対する見方を改めようかなと思ったほど(わたしは夏は嫌い。秋が好きな秋生まれ人間)、夏大好きだという描写が止まらない。
しかもその相手が、年上、人妻! お子さん付き!!
もう出会った瞬間、恋に落ちて失恋決定する。儚い。文字通りひと夏の恋。
うっすらと感じていた幼なじみ朝日ちゃん(これがまた美少女。はたから見たらほんとうにもったいない)の好意にも、どうしても応えることができない。
真くんは、自分にも他人にも誠実な人です。
こういう人には幸せになってほしいなと、またどうでもいいことを思ってしまいました。(歳かな)
真珠星スピカ
お母さんが亡くなって大変なのに、淡々と日常をこなすみちるちゃん。
いじめってどうしてこうも陰湿なのでしょう。
そして太陽のような船瀬先生(尚ちゃん)の鈍感力よ(笑
全然関係ないのですが、こっくりさんでわたしは「月刊少女漫画野崎くん」という漫画を思い出しました。
7巻第65号にて、こっくりさんをする場面があるのですね。
これが超面白い。こっくりさんもこれくらい笑いに変えられたらいいのになあと思いました。
と、話は逸れましたが。(すみません)
お母さんが幽霊になって見守ってくれているというのは、なんだか良いなあと思いました。
湿りの海
この本のなかで最も共感しづらかった。
ええはっきり言います。キモイです。
でもリアルだなあと思いました。
「真夜中のアボカド」は、寂しい者同士でくっつかなかったお話ですが、「湿りの海」は沢渡さん(主人公の男性)は、奥さんと子どもに逃げられて、ただ寂しいという理由でお隣のシングルマザー母子に近づく。
年若い同僚が合コンとか設定してくれて、宮田さんという女性がちょっと好意を持ってアプローチしてくれるんですが、彼が求めているのは、逃げられた元奥さんとお子さんなんですよね。
だから、船場さんにも沙帆ちゃんにも、一見めちゃ親切なんだけど(気持ち悪いくらいに)、それは去っていった元奥さんと子どもの擬似体験であって、それ以上にはならない。
「そういうとこだぞ、元奥さんに捨てられたのは」と思うけど、それは沢渡さんにはきっとわからない。
これ、男性目線で読んだらまた違う感触が表れるのかなと思いました。
星の隨に
(隨と書いて「まにま」と読むそうですよ。ええ、もちろん。読めませんでしたわ)
「約束してくれる? どんなにつらくても途中で生きることをあきらめては駄目よ。つらい思いをするのはいつも子どもだけれどね。それでも、生きていれば、きっといいことがある。……わたしはあなたにこのマンションで出会えて良かった。いつか忘れてしまうかもしれないけれど、なるべくあなたのことは忘れないようにするね」
(P215 星の隨に)
なんて素敵な言葉でしょう。じんと胸が温かくなりました。
こういう言葉を子どもにかけられる大人(おばあさん)になりたいなあと思いました。
コロナにはじまって、コロナに終わる。
「真夜中のアボカド」と「星の隨に」は、コロナに入ってからつくられた作品のようです。(初出が2021年)
再婚した家庭で、生まれた異母弟はかわいくて、でも継母にはまだ気を遣って。
いろんな思いがあるけれど、それを実の親にも出すと悪いかなと大人に気を遣って。
親たち大人も等身大でいろんなしんどさを抱えているんだけれど
いつの時代もその皺寄せは子どもにやってきてしまう。
佐喜子さんみたいな人にそっと気づいてもらえたのは、こういうご時世でもなんだかほっこりします。
きっと大きくなる頃にはこの一瞬の邂逅は忘れてしまうだろうけれど、それでも彼のこころの一部を守ってくれたように思います。
まとめ:共通するもうひとつのテーマ
短編集で、物語のひとつひとつは短く、どこかもの哀しい。
それは、この本の共通テーマが「喪失」だからだと思いました。
どうしようもない別れ。いろいろな別離に彼らはさらされています。
それは死別だったり、失恋だったり、離婚だったり、理由はいろいろなのですが。
どんな理由であれ、別れはこころにぽっかりと穴を開けるのです。
それでも生きていると、これからも生き続けなければならない。
日々の生活を続けていかなければならない。
その一瞬を、わたしたちが眼にする星のように(星もわたしたちが眼にする宇宙の時間からすると一瞬です)切り取ったような物語たちでした。
この感想を書きながら気づいたのですが、それぞれの物語を読み終わったあとに、なぜか登場人物には幸せになってほしいなと願うような気持ちが自然と湧いてきました。
「星に願いを」という言葉が浮かんできました。
全体的にはハッピーエンドというわけではない、いやいや、人生はまだまだこれからだぞという締めくくり方なのですが、そんな思いを起こさせる珠玉の物語たちでした。
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