新聞の見出し広告で見つけて、読んでみました。
小川糸さんの本は、これまで名前を聞く機会はあったのだけれど読む機会には恵まれなくて、今回が初めてです。
簡単なあらすじ:「ライオンの家」
「ライオンの家」は瀬戸内海のある島にあるホスピスの名前です。
主人公である、海野雫(しーちゃん)は33歳の末期がんで、この「ライオンの家」にやってきます。
「ライオンの家」は、マドンナと言われる女性(看護師資格を持つ)が運営するホスピスで、ここに来る人は「ゲスト」と呼ばれます。
「ゲスト」は、百獣の王であるライオンのように自由に時間を過ごします。
「ライオンの家」では、毎週日曜日の午後三時からお茶会が開かれます。
ゲストがもう一度食べたいおやつをリクエストし、週に一回のお茶会で選ばれたおやつをみんなで食べます。
これが「ライオンのおやつ」です。
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雫がライオンの家に来てから、何回かこの「おやつの時間」がやってきます。
選ばれたゲストのおやつのエピソードもさることながら、週を追うごとに雫自身の変化(心身ともに)が刻一刻と容赦なく描かれていることも、印象的でした。
命の物語
全体的には温かくて優しい物語。
人生の最後に、こんな場所で過ごせたら素敵だな、こんなおやつの時間があったらなんて素晴らしいんだろうと思う。
そして、これは命の物語。
頭でわかっていても、実際に体験しないとわからないこともある。
命に関わることってまさしくそうだと思う。
どんなに想像力を駆使してもわからないことはあって、でも雫を通して追体験させていただくような、不思議な時間でした。
これは、例えば今がんで闘病中の方や、大切な家族を亡くされた方、読む人の立場によってきっと感じ方は幾通りにもなります。
わたしも、この本を通していろんな思いが湧いてきました。
それをここに書き切ることはできないけれど(あまりに個人的すぎて)、もし自分の命がもう残り後少ないとなったら、この本をまた読み返したいなあと思いました。
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終盤は、読んでいて涙腺が崩壊しました。
本を読んでこんなに泣き崩れるって、そうそうない体験。
電車のなかで読んでいたら泣き始めて、時間を空けてまた読んだらまた泣いて、開いては泣いて、泣いては閉じて、最後にカフェにたどり着いて最後まで読み終えるときにもまた泣いては閉じて、開いては泣いてを繰り返してしまいました。
家で読めばいいじゃんとなるのですが、ちょうど読み終えるところが外にいるタイミングだった。
そして、どうしても最後まで読んでしまいたかった。そして、今これを書いています。
おやつの時間
「おやつは、体には必要のないものかもしれませんが、おやつがあることで、人生が豊かになるのは事実です。おやつは、心の栄養、人生へのご褒美だと思っています」
(P248 マドンナの言葉)
ブログでこれだけスイーツのことを日々取り上げておきながら、実はときどき、おやつを食べなくて済むのならそれに越したことないのになあと考えます。
というのも、わたしは体質的に甘いものを控えたほうがいいから。
家ではきび砂糖を使っているし、コーヒーや紅茶にも砂糖を入れないし、ペットボトルの甘味飲料はほとんど飲まないけれど(砂糖の量がすごいのですよ)、甘いものはやめられない。
わたしはお酒は飲まないし、ごはんもちょびっとでいいんだけど(玄米は食べたくない)、甘いものがやめられないことはずっと悩みでもあります。
いまは、週に一度だけ、ノーおやつデーを作って(休甘日というやつです)、それがせめてもの努力。
お酒を飲んで至福の時間というのはわたしには必要ないのだけれど
おやつの時間は、わたしにとって大切な滋養の時間でもあります。
おやつって不思議で、それでちょっと気持ちが和らいだり、誰かと一緒に何かを共有したり
別にごはんでもいいんだけど、ごはんともお酒とも違う次元でおやつの時間は存在すると思います。
スウェーデンでいうフィーカもそう。日本でも、大工や農家は1日2回のおやつ休憩が大事な時間だったりしました。
*
何が言いたいかというと、改めておやつの時間を大切にしようとしみじみと思いました。
こう書くとありきたりになってしまうけれど。
いえ、おやつの時間だけでなく、この物語では日常の当たり前のことがどれだけひとつひとつかけがえのないことか、雫を通して教えてもらいました。
命はずっと続くものではなくて、誰にでも平等に有限であるもの。
その長さは、神様が決めるかのように、人によって違うけれども。
昔は死について考えるのは怖かった。今も、やっぱりどこかで怖い。昔よりはマシだけれど、まだまだどこかで遠いことにできたらいいのにと思ってしまう自分もいます。
一方で、長く生きることだけが良しではないなあと思うようになった自分もいます。
「いつか、自分がもっと~~したら、こうしよう」と昔の自分はよく思っていた。
例えば、もっとお金を稼げるようになったら、もっと身体の調子が良くなったら、結婚したら。
でも、その日は永遠に来ないかもしれない。(来ないことを自覚するくらいには大人になった)
なら、今を後悔しないようにできることはやっていきたい。と、最近の自分はよく思います。
雫が試着室で聞いた「違うでしょ!」は、現状で勇気を踏み出せずにいるすべての人に贈られるエールのようです。
結び
この本を読み終える数日前、同居している高齢の母が急変して、バタバタとしてしまいました。
幸いにも大事には至らなかったのだけれど、わたしには随分と堪える出来事だった。
それもあってか、涙腺は緩むし、気持ちも緩むし、ぐらぐらと足元がおぼつかない気持ちになりました。
少しひと段落して、文字通りおやつの時間を過ごしながら、やっとひと息ついてこの文章を書いているところです。
この記事で、今の自分の心境は完全には言い表せていないのだけれど、いつかこの文章を自分が読み返したら、きっとこの時の気持ちを思い出すだろうなと思いながら書きました。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
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