少し前に恩師に再会したときに「運動はとにかく脳に良いらしいよ。走ると良いんだって」という話を聞いて、そのときに薦められたのが本書です。
その先生は、トライアスロンもしているバリバリ運動系の人でした。
わたしは運動や体育という言葉におよそ拒否反応を示してしまうインドア派なのですが、走ることは好きなので(一見すると矛盾するけどまあいいや)、先生の言葉にちょっと興味を持ちました。
というわけで、目からウロコの内容満載な本でした。
しかし、単純に本書を絶賛してしまうとなんだか盲信しているみたいでわたしの感性を疑われると困るので、運動嫌いな人にも寄り添いつつ今回は取り上げてみたいと思います。
著者は精神科医
著者のアンダース・ハンセン氏はスウェーデンの精神科医です。
脳神経科学にもある程度精通しており、うつ病についても専門家と言えます。
が、医学だけでなくストックホルム大学で企業経営を修めたという経歴がちょっと変わっています。
なんかものすごく「これやったら万事解決!」みたいな、なんとか商法みたいな匂いもするのはそのせいかもしれません。
いや、科学的根拠も出しているからエビデンスもあるのですが、とにかく運動推しな文面は商業誌的ハウツー本っぽさがプンプンします。(わたしの偏見もあるかもしれない)
まあ、お医者さんは頭良いからなあ。この人運動もしてさらに脳力アップ! みたいな人だし。
簡単にいうと、とにかく運動したら脳に良いらしいよ
もうひとことでいうと、「運動は脳に良いから、みんなどんどん運動しましょう」ということです。
それについての説明が、いろんなことに対して細やかに書かれています。
・ストレス解消(うつ病にも効果)
・集中力のアップ
・やる気アップ
・記憶力のアップ
・ひらめき力のアップ
・学力アップ
・老化予防(認知症、高血圧、高血糖にも効果)
と、運動することで良いことづくめです。
だったらやらない理由がないじゃないか!
と、いうことです。
そして、ここでいう運動は、激しい運動ではなく、週3〜4回くらい、1回30〜40分程度のランニング(ウォーキングも良いけどランニングのほうがより良い)を推奨しています。
ちょっと身体に負荷がかかる程度の運動を、小刻みにすることです。
でも、これって普段運動習慣のない人からすると、けっこうハードル高くないか??
個人的体験その1 高校時代の思い出
この本を読んで、「そうか、体育会系の人のあの無駄な爽やかさとエネルギッシュさは運動しているから気持ちに作用しているのか」と目から鱗になりました。(体育会系の人への誤った印象かもしれません)
文武両道とかいいますが、確かにあります。あります。
わたしの周りの頭の良い人たちは、いわゆるガリ勉(いまってガリ勉って言うのかな?)タイプではなく、勉強ももちろんできるけど、運動もするのです。
なんか本書を読んで、運動することが学力ややる気、注意力、集中力、さらには情動にも影響を与えることが、高校時代のキラキラした同級生の姿を彷彿とさせました。
勉強のできる子=運動は苦手 ではないのですよ!
得意かどうかは別にして、勉強のできる子はけっこう身体を動かすことを厭わないのです。
個人的体験その2 うつ的な体験から
一時期、人生の暗黒期というか、うつ状態になっていたことがありました。
この時の体験をちょっと振り返ってみました。
ちょっとマラソンが楽しかった
大学生のときに、体育の授業で、マラソンがあったんですね。
高校卒業してからまともに運動なんか全然していませんでした。
それがいきなり6kmのマラソンです。
これがね、めちゃくちゃ楽しかったのです。しんどいけど楽しい。ランナーズハイです。
「あ、わたしは走るの好きなんだなあ」とこのとき初めて知りました。
次の日恐ろしい筋肉痛に襲われましたけど。
この体験は、あとでうつ状態が悪化したときに効いてきます。
うつ状態が悪化
大学が進むにつれて、うつ状態がどんどん悪くなっていきました。
この時期は身体もこころもボロボロでした。
大学の学生相談室でカウンセリングも受けていました。
転機は運動だったのかもしれない
本書を読んで「あのとき回復していったひとつの要因として、運動があったのではないか」と思いました。
わたしは、結局大学卒業するまでになんとかひと区切りをつけることができたからです。完全治癒とまではいかなかったけど、とりあえず区切りをつけることができました。
泥沼のような暗黒から上がってこられたことのひとつとして、運動があったのかな、と。
通学中の電車の広告で、マラソン大会の案内があったんですね。
何気なく見て「参加してみようかな」と思ったのです。マラソン大会なんか参加したことなかったし、しようと思ったこともなかったのに、ふと思ったのです。
そこから、けっこう走るようになりました。
それまで、日常で走る体験って全くなかったんだけど、当時は何かを振り切るように「走ったら良くなるかも」と思ってものすごく走っていました。
いろんな意味で、当時はとにかく走った。毎日3kmくらいは走っていた。人生でいちばん走っていた時期だった。
マラソン大会の10kmも、無事に完走できた。
走ることで、すぐになにかが良くなったわけではないのです。
でも、走ったあとは確実に身体に「がんばった」感触が残ったし(当時なにもできなくなっていたわたしにはそれは数少ない手応えだった)、気持ちもそのときは、ほんの少しましになっていたのです。
もし、走っていなかったら、回復にはもっともっと時間がかかっていたかもしれない。
身体を動かすことは、いろんな意味で良い
身体を動かすことが大事なのは、日々の運動習慣が健康に寄与することは、すでに既知のことです。
でも、それが脳にも多大な利益を及ぼすことをちゃんと取り上げたのは、本書の意義ではないかと思います。
身体とこころは離れがたく結びついているので、当然といえば当然ですが、エビデンスレベルでそれが実証されたわけです。
でもさ、それはわかるんだけど、わたしはランニングは好きだから、どんどん走ろうと思えて良かったんだけど、
運動嫌いな人はどうすれば良いんだ!
とも思っちゃいました。
これは精神科医をしながらテニス、サッカー、ランニングに週5日、少なくとも1回45分取り組む(著者紹介より)著者には無縁の悩みだろうなあああああ
運動というか、体育は嫌いだ
わたしは走ることは嫌いじゃないけど、運動と呼ばれるものは嫌いです。
レクリエーションでバレーとかバスケとか、ちっともやりたいと思わない。スポーツ観戦もまったく興味がない。(オリンピックを見るのは、ちょっとだけ楽しい)
そもそも集団でやるスポーツを楽しいと思ったことがない!
中学のときは体育のせいで内申が下がった。
運動会は雨で中止になればいいといつも思っていた。
体育は、嫌いな科目ナンバーワンです。言葉を聞くだけで拒否感出るくらい嫌いだ。
(※体育の先生も、体育の好きな人にも、特に他意はありませんので悪しからず。知り合いに体育の先生はいるけど、良い先生だし、体育の大切さもよくよくわかっています。個人的に嫌いなだけ)
走るのが個人的に合っていたのは、それが個人競技だからだろうなと思います。
やるのなら、まずはちょこっとずつ。それが最初の一歩
だから、運動が基本的に好きではない立場から見ると、本書に書いていることを全部鵜呑みにすると、運動嫌いな人はますます動けなくなっちゃうなあと思いました。
あれですよ、親から「早く宿題やりなさーい」と言われると、ますますやりたくなくなっちゃうあの感覚に似ていませんか。
でも、まあそうなんだけど。
別に週に1回でも良いし、1回30分オーバーでなくても良いと思う。
走るのが推奨だけど、歩くこととか、ちょっと活動的になることからでも良いと思うんだ。
第一、普段運動していない人がいきなり運動すると、だいたい続かない。
できる範囲から、例えば近所を一周歩いてみるとか、エスカレーターをやめて階段を使ってみるとか、そんなところからで良いんじやないかなと思います。
あと、うつ病の人とか、真面目に運動しようとして、できないと「やっぱりわたしはダメだ」と運動できないことがさらにプレッシャーになるのも良くない。ますます良くない。
できることから、ちょっとずつ。それで良いと思います。
身体を動かすと、「あ、気持ち良い」と身体が喜んでいる瞬間が必ずやってきます。
それはけっこう快感です。それがやってきたら、自分が苦痛にならないことを、ちょっとずつ増やしていけると良いかなと思います。
わたしの場合は、日々にちょこっと運動をプラスしています。
外に出てランニングはできない日も多いので、(着替えて外に出てランニングするのって、けっこう面倒な上に休みの日に限られているので、できて月に1〜2回……最近は月一もできてない)家のなかでテレビを見ながら15分その場でランニングとかしています。
あと、外に出かけるときは、歩くのはけっこう楽しい。
本書を読んで、「あ、もうちょっとランニングやってみよう」と思えたのは、いろんな意味でモチベーションアップになりました。
結び
本書で何度か引用されていていた、村上春樹さんの「走るときに僕の考えていること」
久しぶりに読んでみようかなあと思いました。
関連情報
※2022年6月追記
ハンセンさんの別の著書