多様性を描く漫画「逃げるは恥だが役に立つ11巻」完結

 

以前ドラマ化されたことで話題になった「逃げるは恥だが役に立つ」(略称「逃げ恥」)

一旦は完結しましたが、その後のみくりと平匡さんを描いた続編が、今回完結しました。

個人的に続編は完全なるファンサービスだと思っていたので、海野先生お疲れさまです!

 

わたしはというと、ドラマ化される前に逃げ恥に出会い、電子書籍版でコミックス全巻揃えてしまうくらいハマってしまいました。

ドラマはガッキーと星野源さんがふたりともかわいくてキュンキュンしながら楽しく見ました。

 

石田ゆり子さん以上に百合ちゃんを素敵に演じられる女優さんっていないと思う。

恋ダンスは踊らなかったけど、曲はiTuneで購入して、いまも時々聴いては元気をもらいます。

 

というわけで、今回は漫画版「逃げ恥」最終巻の感想&考察を書いてみます。

 

※漫画のネタバレを含んでいます。未読の方はご注意を。

 

妊娠&出産、子育て開始までを描く

これは経験したことのある人とない人で、見方はだいぶ変わるかもしれません。

わたしは経験したことのない人間なので「そうか、こんなに大変なんだ」と思うこともあったのですが、経験者は「もっと大変だよ」という意見を持つ人もいるかもしれません。

そこは個人でも違うのでさておいて。

 

そんなわたしから見ても、平匡さんはかなり協力的な夫で(この「協力的」というワード自体、みくりからしたら怒られそうです。出産子育ては共同作業)、それでも夫婦でイラっとしたりすることもある。

でもこの夫婦の良いところは、それもちゃんと飲み込まないで言葉にして言い合っているところ。

籍を入れるところまでいく過程で培ってきた信頼関係がいかんなく発揮されている。

 

ある意味似た者同士なこのカップル。ここにきてさらにお似合いだなあと思いました。

 

職場の理解がなかなか得られないなかで、それでも自分たちが大事だと思うことを主張していく。

一方に押し付けずに、ふたりでやっていこうとする。

 

現実はもっと厳しいだろうし、みくりと平匡さん羨ましい! と思ってしまうかもしれません。(わたしでも思った)

契約結婚からはじまったふたりが、いつのまにか時代の先端をいく子育てを実践している。(契約結婚もある意味時代の先を歩んでいたかもね)

 

まだまだ子育てはこれから。きっと大変なことはこれからもたくさん待っているだろうけれど、このふたりなら、その都度話し合ってお互いを尊重しながらなんとかやっていけるんじゃないかなあと思います。そういう安心感がある。

だからこのお話は、ここでおしまいで良いんだろうなと思います。

 

百合ちゃん

わたしのなかで大好きな一推しカップルだった風見さんと百合ちゃん。

続編がはじまってすぐに「えー、別れちゃったのー?」と残念に思ったのですが、「いやいや、これは伏線で最後は復縁するのでは」と期待を込めて読んでいました。

でもこれも、なんかいろんな意味で予想を裏切られてしまった。

 

カップルであることを至上とするのなら、この結末はなんとも味気のないというか、物足りないものだったと思います。

 

だってどこかでこのふたりはまだ想いあっている。

 

でもなんか”恋人”というくくりだと、特に百合ちゃんは”恋人”を意識して、頑張りすぎちゃったりいろんな思いが湧き起こってきて、しんどくなってしまう。(それも含めて良いところもあるのだろうけど)

それよりは、友達以上恋人未満のような言葉にできない関係性が、細く長く続いていくほうがこのふたりには合っているのかもしれない。

 

個人的にはこのふたりには恋人でいてほしかったのですが、それもわたしの考える”恋人幻想”みたいなのがあるのかもしれません。

この漫画の描く、ステレオタイプに縛られないラディカルな考え方のひとつというか。

 

いやだってね、最後の大笑いして百合ちゃんが言った「結局自分のことが好きじゃない女が好きなんじゃないの~?」にわたしはまた風見さんのハートが射抜かれたと思ってしまったのです。

「それ裏を返すとあなたのことですから!」と思ってしまった。(内心では風見さんのことがやっぱり好きだけど、表面的にはそこを出せない乙女な百合ちゃん)

 

くっついたり離れたりしながら、言葉に定義されない関係がこれからも続いていくと良いなあと、ことこのふたりに関しては思ってしまったのです。

 

雨山さん

個人的に自分の立ち位置にいちばん近い人なので、なんとなく気になってしまった。

平匡さんに惹かれていたけれど、既婚と知って玉砕。でも職場の男性陣のなかでは平匡さんがやっぱりいちばんという、ちょっとかわいそうな役どころ。

雨山さんみたいなタイプの人って存外多いんじゃないだろうか。

そんなに悪くないし、別に結婚願望もないわけじゃないし、おそらく結婚したらそれなりに良い奥さんになりそうなのに、なんかご縁がなくてずるずると来てしまい、かといって積極的に婚活するまでもいかない人。でも女性ならではのタイムリミット(妊娠できる年齢)があるので、内心はやっぱり焦ってもいる。

 

ひとつこれだけは言いたい! と思ったのは、雨山さんが惹かれたのは”みくりと出会った平匡さん”なんですよね。

みくりと出会う前の、壁の内側にいたプロの独身の平匡さんなら、雨山さんはそこまで惹かれなかったと思う。

 

そう思うと、雨山さんの立ち位置と、かつての平匡さんの立ち位置は似ていなくもない。

 

以前読んだ辻村深月さんの「傲慢と善良」で、結婚相談所を個人的にしている女性が「結婚できるのは、自分が何を望んでいるかよくわかっている人」ということを言っていて「ああなるほど」と思いました。

 

例えば日野さんの知り合いの綾ちゃん(かつて風見さんに猛烈婚活アタックをした人)は、それがわかっている人なんですよね。ある意味潔いというか。結婚して子どもを持つことが自分の願望だとちゃんとわかって行動できている人。

でも「世間的にそろそろ結婚する年だし」とか「結婚して子どもができて家庭を持つのが幸せ」とか、自分基準じゃないところで婚活すると、結婚が目的になってしまって相手が見えなくなってしまったり、自分がほんとうは何を望んでいるのかもわからなくなってくる。

別に「恋愛=結婚」じゃなくてもいいし、結婚が目的でもいいんだけど、それこそ結婚って昔は自分の気持ちとかなくても成立していた(むしろ気持ちは不要とも言えるほどの)制度だったんだけど。

だから雨山さんは雨山さんの生き方を模索したらいいし、北見さんとの関係でモヤっとしたのを放っておかなかったのはむしろ良かったと思います。

 

ちょっとさっぱりした表情で最後を迎えられた雨山さんは、個人的に応援したいなと思いました。

大沼田会も良いですね。ああいう会ってとっても良いなあと思う。

 

描かれたのは、開かれた多様性

続編には百合ちゃんの友人伊吹さんとすみれさんという素敵なカップルも登場しました。

そもそも契約結婚という型破りなものからはじまったこのお話。いろんなタイプの人たちが登場して、それこそ「現実はそこまで甘くないよ」と言われそうですが(そう思ってしまうわたしこそ、そういう声を拾いすぎるのだろう)、いろんな人のいろんな生き方が描かれたのがこの漫画の醍醐味だろうなと思いました。

 

この漫画の面白さって、多様性にあると思います。

 

恋愛して結婚して子どもが生まれて、仕事もあって、それがステレオタイプの幸せと言われるかもしれないけれど(結果的に順番はちょっと違うけれどみくりはそれを達成したのでした)、それだけが幸せの定義じゃないんだよと。

百合ちゃんと風見さん然り、いろんな考え方の人がいて、性のあり方も多様で、でもみんなそれぞれに自分たちの幸せやより良い生き方を追求していく。

 

そしてそして結婚というものに限定されなくていいんだけど、平匡さんがみくりと出会って壁の外側に出て変わっていったように、人と人との出会いって大きな化学反応でもあると思う。

だから、全然違う価値観の人とも出会うって、大変ではあるけれど面白くもあるんだろうなと思います。そのゴールが、カップルであってもなくても良いよね、とも思う。

 

なんか逃げ恥を読んでいると、子どもを産みたい人はどんどん産めば良いし、働きたい人はどんどん働けば良いし、社会全体で社会を回して次の世代を育てていくくらいの大らかさで世の中が回っていけば良いなあと、超楽観的に思えてしまうから不思議です。そういう世の中になっていくと良いですね。

 

結び

いま世の中はコロナで大変なことになっているけれど、みくりと平匡さんだったらあれやこれや知恵を絞りながら、でもときどきストレスでいっぱいになりながら、それも含めて工夫してやっていくんじゃないかなあと思いました。

頭がぎゅーっと硬くなっているときに、「そういう考え方もあるよね」と教えてくれる面白い漫画です。また1巻から読み返していて、いま8巻目くらいなんだけど、やっぱり面白いなあと思いました。

できることなら、2時間くらいのスペシャルでいいから、ドラマでも続編をやってほしいなあ。あのメンバーで続編を見てみたい!

 

※2021年1月追記 

ほんとうにスペシャルでドラマ化されました……!(感動)

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