今回はお気に入りの本のお話です。
今、十二国記の戴のお話を読み返していて、終わったら人物考察を練り直したいのですが、何せ8冊もあって(今7冊目!)もう少しかかりそうなのでそちらはまた後日。
※2022年6月追記
気合い入れすぎて3部作です。
導入
昨年から本棚を整理しています。
けっこうな量の本を処分しましたが、一方で「これは捨てられない」という本もあります。
以前にも書きましたが、わたしの読書は「赤毛のアン」からはじまりました。
▽読書についてのお話
新潮文庫から出ているモンゴメリの作品はコンプリートしています。
何度も読んだのでボロボロで古本屋にも売れないだろうそれらの本は、今は全然読んでいないのだけれど、自分にとって大切な宝物。
改めて新しい本棚に移し変えるときに
「今なら、わたしのお気に入りはどの作品だろう」と考えました。
・・・
昔なら、「赤毛のアン」だった。
特に大学生時代のアンを描く「アンの愛情」は最高に好きだった。
エミリーシリーズも、癖があるけど好きだ。
でも、トータルで見たら……今なら「丘の家のジェーン」かな。
というわけで(長い前置きですみません)、今日は「丘の家のジェーン」について語ってみます。
丘の家のジェーン
※作品の内容に触れています。未読の方はご注意を。
1937年に出版された作品。(新潮文庫からは現在出版されていない様子……ショック)
モンゴメリの代表作「アン・ブックス」「エミリー三部作」に比べると、この作品はちょこっとだけ毛色が違います。それゆえ、発売当初は評判が良くなかったとか。
なにが違うかというと
- トロントとプリンス・エドワード島が舞台
- 両親が健在
アンもエミリーも、孤児でした。(エミリーは冒頭に父親が亡くなる)
ただ、ジェーンも両親が存在するとはいえ冒頭では親の機能が不十分だったので、ベースはアンやエミリーに似ているかも。
改めて考えると、モンゴメリの作品は、愛情がある夫婦から生まれた基盤があるけれどもそれが機能していない孤独な女の子というのが似ている。モンゴメリ自身の生い立ちにも通じます。
簡単なあらすじ
この作品の主人公のジェーンは両親が生きていますが、両親はジェーンが赤ん坊の頃に別れて(当時のカナダでは離婚がむずかしく、法的には夫婦)、ジェーンは父の存在を知らずにカナダのトロントで、祖母の家に母と一緒に暮らしています。
母親は美しい人で祖母の溺愛の対象。その母が、祖母を裏切って駆け落ち同然で結ばれたのが、ジェーンの父親です。
父方の家系に似たジェーンは、祖母の蔑みの対象です。
母親の愛情は感じているものの、祖母から日々貶められていたジェーンは、作品冒頭では全く自信のない精彩の欠いた女の子でした。
そしてジェーン自身も、それは自分のいる環境がどうも良くないんだと気づいていました。
そのジェーンが、ある日青天の霹靂に遭います。
死んだと思っていた父親が生きていることを知るのです。
しかも、ずっと放ったらかしにされていた父からジェーンに会いたいと手紙が来ます。
ひと夏、ジェーンは都会のトロントから、父と過ごすためにプリンス・エドワード島へ行くことになります。
そこから、ジェーンの人生は一気にカラフルに彩られていきます。
自分らしくあること
ジェーンもアンやエミリー同様、想像力豊かな魅力的な女の子として描かれています。
しかし、冒頭のジェーンはその芽が開いていない状態でした。
この作品の魅力っていろいろあるのですが
「その人らしい魅力が発揮されるのに、いかに周囲の環境が大切であるか」が
如実に表現されているところだと思います。
ジェーンは10年ずっと、祖母からの厳しい仕打ちに遭ってきました。
衣食住は整っています。祖母はカナダではお金持ちです。
家には使用人がいて、ジェーンは教育も衣服も食事も十分すぎるほど与えられています。
でも、母は祖母の厳しい仕打ちから十分には守ってはくれませんでした。(母も祖母には逆らえない)
父と出会い、プリンス・エドワード島に来て、そこでジェーンははじめて自分が人として尊重される体験をします。
島の人は、トロントの生活に比べると貧しい家もありますが、概ねみんなジェーンには親切でした。
なにより、祖母が大嫌いな父は、非常にユニークな人物で惜しみない愛情とともにジェーンへ良い感化を及ぼします。
自分が自分として認められていること。
その力がもたらす効用。
ジェーンは、プリンス・エドワード島へ来て急に生まれ変わったのではなく、もともと持っていた魅力が花開いたのだと思います。
そして、それは夏が過ぎてトロントの祖母の家に帰ってからも続きます。
学校ではグズでノロマだと思われていたジェーンは、めきめきと頭角を表していきます(笑)
ついには親戚の叔父さんや馬鹿にされていた従姉妹からも一目置かれるようになります。
祖母は、そんなジェーンを絶対に認めませんが、ジェーンはもはやそんなことを気にしません。
だんだん子生意気にもなってくるのですが(笑)、これまで抑えていたものが溢れ出てきた感じ。しかも祖母仕込みの行儀の良さは保っているから、むしろジェーンが一枚上手。
母親のような美人タイプではないのだけれど、どうもこの子は魅力的だと思わせる素敵な女の子になっていきます。
そうして、物語はいよいよ両親の関係にまで踏み込みます。
誰も、当の両親でさえ諦めていた夫婦の綻びを、ジェーンという存在が修復します。
*
この作品の魅力のもうひとつは、1冊に凝縮された力だと思う。
終盤のダイナミックな展開は、最後まで目が離せません。
プリンス・エドワード島の生活はやはりモンゴメリならではの描写力。しかし、トロントでの生活がどんどんと変化していくのも物語に濃淡があって面白いのです。
そして、物語の閉じ方もとても綺麗。
モンゴメリは、晩年にこの作品の続編を書かれていたそうなのですが(未完で終わっています)、個人的にはこの作品はここで閉じているから良いのだと思う。
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ジェーンを通して、人はパンだけでは生きられないのだなということを学びます。
その人らしさ、その人の持ち味が活かされることの大切さ。
そのためには、自分が認められる環境、体験がとても重要になってくる。
今でも、大好きな作品です。
結び
本棚を整理したことがきっかけで、久しぶりに「やっぱり好きだなあ」と思いました。
アンシリーズは、後半になるほどアンが非の打ちどころのないブライス夫人になっていき(幸せなことは面白みに欠けるが良いことだ)、エミリーシリーズは悪くないんだけど火のように激しいパッションを内に秘めたエミリーは、わたしにはちょっとアクが強い(笑)
「トータルバランスで見ると今はジェーンがいちばん好きかも」と知ったことは自分でも意外でした。
ときどきそうやって昔好きだった作品を読み返して違った感慨が生まれるのも、読書の魅力のひとつです。
関連情報
▽この記事で紹介した本
新潮文庫は再版していないようです。村岡花子さんの訳好きなのになあ。
新訳が角川から出ていますよ。
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