『APD 「音は聞こえているのに聞きとれない」人たち』小渕千絵

 

聞きとる力って目に見えて比べられるものではないから、困っていてもわかりづらいもの。

もっといろんな人に知ってもらえるといいなあと思いました。

本書の感想はわたし個人の体験に照らし合わせているので、参考にならないことも多々ありますが、APDについて興味を持っていただけると嬉しいです。

 

はじめに

以前、聴覚過敏についての記事を書いたときに「騒音のなかでの聞きとりづらさ」について少し触れました。

 

▷▷ 関連記事[聴覚過敏さんはノイズキャンセリング機能つきのイヤホンがおすすめ。

 

その記事では、騒音のなかで過ごすときのノイズキャンセリングイヤホンの恩恵のほうに焦点を当てたかったので、ちょっとブレるなあと思いました。

 

それもそのはず。

 

同じ「きく」でも

聞く」(勝手に耳に入ってくる騒音)と

聴く、聴き取る」(特定の音を聞き分ける)は

似ているようで違うこと。

 

あの記事を書いた後「聴覚情報処理障害(APD)」を知りました。

 

ええー、そんな病名があったんだ!

というわけで読んだのが本書です。

 

結論から言いますと、わたしはAPDではないようです。

でも、読んでみて「ふむふむ」と納得できることもあったので、ついでに紹介してみたいと思います。

 

APD(聴覚情報処理障害)ってなに?

APD(Auditory Processing Disorder)聴覚情報処理障害」は、1950年代ごろから欧米を中心に新しく発見された症状です。

 

「聴力に問題はなく音は聞こえているけれど、人の話し声(音声)を情報として認知するのが困難な状態。つまり、耳から入ってきた音の情報を脳で処理してことばとして理解する際に、なんらかの障害が生じる状態だと考えられます」

(P3 はじめに)※赤字は本文そのまま

 

日本は欧米に比べるととても遅れていて、診断してくれる医療機関も非常に少ないのだそう。

また、診断基準も欧米ではAPDを評価する検査があるそうですが、まだまだ解明され尽くしているとは言い難く、研究途上なのだそうです。

APDには認知機能の関わりも無視できないため、診断は容易ではないようです。

 

日本で約20年APDについて研究してきた著者が、大きく分けて4つのタイプに分類しています。

  • 脳損傷タイプ
  • 発達障害タイプ
  • 認知的な偏り(不注意・記憶力が弱い)タイプ
  • 心理的な問題タイプ

 

わたしの場合

この本を読んでみて、APDの症状のある人のケース(症例)を読んでいると「わたしは特定の場面で聞きとりづらさはあるけれど、そこまで(診断されるほど)ではないな」とわかりました。

ちなみに本書でのチェックリストをやってみたところ、87点(カットオフ109点)で、特に音声聴取の項目が低かったので、聞きとりの苦手さはやはりあるようです。

 

本書を読んで特に気になったところ……

本当はAPDではないにもかかわらず、APDのような聞きとりにくい症状を感じる人もいます。

(P146 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

なんと。

 

そのような人たちに共通する性格傾向として、次の3つがあります。

・「気にしやすい」「真面目」
・生じたミスを自分の責任と感じやすい。
・人との関わりの中での自分の状況がよく見えている。

(P146 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

ええー、それってわたしのことですかー!??(思い当たることがありまくる)

 

まわりの人と比べて自分はどうなのかという、人との関わりの中における自分の状況や「立ち位置」がよく見えている人ほど、症状が重くなる傾向があります。そのため、まわりが見えにくい発達障害タイプの人よりも、そうでないタイプの人たちのほうが、症状が重いように見受けられることがあります。

(P148 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

な、なんか、納得することだらけです……(衝撃的)

 

わたしは聞きとりづらさにそこまで過敏にはなっていたわけではないんだけど「困ったなあ」とは思っていました。

「困ったなあ」に気づいてからは「もしかしたら、まわりのみんなはそこまで困っていないのかもしれない」とは思っていました。(ほら、まわりとすぐに比較するのです)

 

こうした性格傾向の人は、(中略)APDではないのにAPDのような症状を感じてつらい思いをしてしまうこともあります。(中略)
自分自身の性格特性を理解して、あまり気にしすぎないようにすることも、聞きとり困難の症状を改善させる上で大切です。

(P149 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

はあ。左様ですか。

気にしすぎないほうが良いってことね。

 

ちなみに、雑音はすべてのAPDに共通の要因なのだそうです。

 

雑音は、聞こえのメカニズムのすべてにおいて邪魔になります。そのため、健聴な人であっても雑音下では聞きとりにくくなります。まして、聞きとり困難の症状を抱えるAPDの人であればなおさらです。

(P152 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

また、聞きとりは睡眠などの脳の休息をしっかりとれているかも影響してくるそうです。

耳から入るけど、処理するのは脳の仕事なので、なるほどーと思いました。

すべてのパフォーマンスは脳に通じるのね。

 

睡眠も十分とっていて特に障害もなく、聞きとり検査でも異常が見られなくても、緊張度の高い人は聞きとりにくい状況になることがあります。

(P157 第3章 なぜ「聞き取れない」のかーーAPDの4タイプ)

 

いや。これ。めちゃくちゃ当てはまります。

またしても「それ、わたしのことではないですかー!」と深く頷いてしまいました。

 

自己分析してみた。

端的に言うと、APDは「聴覚検査では異常がないけれど、聞きとりに困難のある人」です。

 

わたしは、ずっと自分が視覚優位(目で見て処理するほうが得意)だと思ってきた。

話しながら論考するより、文章で書いたほうが思考がまとまるのです。

みのりさんは喋りは苦手だけど、文章にするとちっとはマシなんだ」と思ってきました。

 

ちょっと待て。そうじゃなかったんだ。

 

というのも、ある種の場面では問題なく人と話しながら思考と自分の考えを言葉にするのが、とてもスムーズに行われるからです。

深く深く思考に入っていけて、人と話すと自分だけで考えるより深まって楽しいなあと思うことが、あるのです。

 

そういうときのわたしは、聞きとりに困難を覚えません。

まあ、ガヤガヤうるさいレストランとかだと集中できなくなるんだけど。そうじゃない静かな場所だったら大丈夫。

 

一方で、人と話すときに、自分の考えをまったく話せず思考は表面を上滑りして、相手の言ったことを理解してそこから自分の考えをまとめて伝えることが恐ろしくできない場面もあります。

 

だから、わたしは「話すのは苦手。聞きとりは苦手。視覚優位」と思っていたのです。

違うんだ。そうじゃないんだ。そこは聴きとる力じゃないんだ。

それは、緊張しているかどうかだったんだ!

 

そう。わたしは緊張していると、聞いて理解して思考する(さらに話す)能力が恐ろしく低下するのです。

 

なんで書いたら大丈夫かって、書く場面では自分が落ち着いて書けるから緊張状態がある程度緩和されるからだよ。(例えば小論文を書く場面だったら、問題用紙を見て書き続ける場面は静かですよね。採用面接で面接官と顔を合わせる場面とは全然違います)

 

最近読んだ別の本でも書いてありました。

 

 

人は自分が安全であると感じると、そこから自分本来の能力を発揮&促進することができます。

逆に緊張状態=常に安全でない環境(生理的に)に晒されていると、それがさまざまなパフォーマンスに影響を与えるようです。

 

聞きとりの問題の半分は、緊張状態だった。

わたしの場合、聞きとりに困難が生じると想定される場面は2パターンあります。

 

  1. 飲み会やレストランでの食事など、騒音下での会話
  2. 緊張する場面での会話>

 

これは、厳密には分けて考えたほうが良いと知りました。

 

特に緊張する場面では、正確には聞き取れているんだけど、理解が追いつかない。

理解して自分のなかで処理して、言葉で返す処理が、緊張していない状態よりも恐ろしく低下するのです。(いわゆる「頭のなかが真っ白になる」というやつです)

 

例えば職場での電話対応では、1と2の複合パターンです。

基本的に仕事場面は緊張するので、必要以上の電話対応業務は向かないことはよーーくわかりました。

現在はそういう環境には置かれない職場にいますが、職場を移って正解だった。

 

とはいえ、複数の音がある場所はやはり苦手。

APDと診断はされないかもしれないけれど、ガヤガヤとした騒音のうるさい場所での聞きとりはやはり苦手です。

テレビをつけながらの会話も苦手です。聖徳太子には逆立ちしてもなれません。

APDではないにしても、このブログでも何度か書いている選択的注意の苦手さはあるんだろうなあ。

 

 

結び:自己理解が大事

もしやAPDというもので自分の生きづらさがまたひとつ解明されるのかな?」と期待しましたが、複合的に見てそうはなりませんでした。

 

まあ、名前を得ることだけがすべてじゃないですからね。

でも本書のおかげで、これまでよりも少し自分について知ることができました。

 

そういう自分の特性を知ることで、変わっていくこともあると思います。

気になる方は、本書を読んで「自分はどうなのかな?」と考えてみてくださいね。

 

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