凪良さんの本感想が続きます。
今回はこちら。
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※物語の内容に少し触れています。未読の方はご注意ください。
簡単なあらすじ
和久井一悟は、下宿すみれ荘の管理人を務める。
ある日ひょんなことからすみれ荘に転がり込んできた芥一二三(あくたひふみ)。
生き別れた弟ではないかと思いながら、他の下宿人と共に一緒に過ごす日々のなかで、少しずつ明らかになっていく真実とは。
感想
今回はさらっと感想です。
一言でいうと「一悟くんモテモテ」
一見パッとしない30代で定職にもついていない主人公一悟さんは、実はひそかにいろんな女性から想いを寄せられていた。
そして、本人は(奥さんになった)桜子さん以外にはまったく気づいていない!(笑
愛が重いな、というくらい粘着質な想いは、クールな弟・央二さんがバッタバッタと切り倒していく、そんな痛快ストーリーです(違
いや、まあ。央二さんもお兄さん(一悟)大好きだから、なんかわかるのかもしれない。
カップルに間違われたり勘違いされたり、一悟は弟だからと思っているけど、小さい子どものときならいざ知らず、央二さんはお兄さんのことがかなり好きだよね、と思いました。
央二さんの壮絶な過去が明らかになっていくと、それはもう奇跡かなと思うくらいのことでした。
凪良さんのお話では、ふつうの恋人とか家族とか、そういうカテゴリに当てはまらずに一緒に生きる・暮らす人々が描かれることがよくあります。
一悟と央二は、血のつながった兄弟ではあるんだけど、なんだか不思議な縁でつながっている家族だなあと、そういうところが凪良さんらしいのかなあと思いました。
(つまり、ふつう兄弟と聞いてイメージされる関係性とは少し異なる結びつきがあるように感じるのです)
「妙にウマが合ってる感じする。病弱で気い遣いの和久井さんとコミュ障の芥さん。この組み合わせでウマが合うって奇跡に近いよ。恋愛相手を異性に限定しなくていいし、つながる理由を恋愛に限定しなくていいし、孤独を解消する術なんて人それぞれだし…(中略)」
(「すみれ荘ファミリア」名前のない毒 青子の告白)
これまで社会で当然とされてきたことに縛られて生きづらく感じている人々に、凪良さんの物語は新しい風を吹き込んでくれるのかなと思いました。
わたしもそんなひとりであるかもしれないです。
おまけ:「表面張力」についての一考察
文庫版の巻末に収録されている「表面張力」。
点と点が線で繋がってひとつの実体を浮かび上がらせていく、面白いお話でした。
ここに登場する古式ゆかしい従順で完璧な寺の嫁についての芥さんの洞察が「自我の欠如」だったことに笑いました。
それくらい、自分を押し殺して、押し殺していることさえ気づかないくらい家の(姑の)色に染まれる人でないと、昔はやっていけなかったのだろうなと思います。
実際は、この女性。実はラスボスかなというくらい、実は染まっているようで、知らぬ間に周囲を飲み込むような面もある、ちょっと底の知れなさがある方ですが。
これはひょっとしてホラーなのかしら? と思うようなピリリとしたお話でした。
本編ありきの内容ながら、本編にはない謎解きとスリル感もありました。
あと、本編同様に一悟さんの癒やし系な感じは、良いですね(笑
関連情報
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