「ライオンのおやつ」に続いて、小川糸さんの本を読むのはこれで2冊目です。
題名に庭とタイトルのつく物語が先月から続いたのは偶然の産物です(笑
途中からハラハラドキドキ、ぐいぐいと引き込まれてしまいました。
もしかしたらこの本は、人によっては読むことでいろんな思いを掻き立てる物語かもしれない。
でも、物語は物語として、味わってもらえると良いなあと思いました。
感想
はじめは「これはどんな物語なのだろう」と訝しみながら読みはじめました。
まるでおとぎばなしのような物語の語り口です。
それは、生まれつき目の見えない主人公「とわ」ちゃんの視点から一貫して描かれているから。
とても穏やかな表紙や挿絵からは想像もできない壮絶な世界がそこには待っています。
わたしは「いつになったらこの悪夢のような世界が終わるのだろう」「ほんとうにこんな状態で人は生きられるんだろうか」と、胸にざわざわとした気持ちを抱きながらページを繰りました。
想像以上にとわちゃんの孤独な日々は長かった。
だから、そのあとのとわが手に入れる平穏な日々の落差に信じられない思いもしました。
そこはまあ、物語なので深掘りせずに。(しかし、終盤でもお薬の手放せない状態は、妙にリアリティもあります)
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ふと、ラプンツェルを思い出しました。
わたしはこの原作は実は読んだことがなくて、身近なのはディズニーの作品です。
養母から「外の世界は危ないから、塔から出てはいけないよ」と言われて育ったお姫さま。
印象的だったのは、そのラプンツェルが意を決して初めて塔の外へ出たときに、自由を謳歌する気持ちと母に抗った罪悪感の葛藤に苛まれるシーンです。
(余談ですが、ディズニーのラプンツェルは、ディズニー作品のなかでわたし的に1、2位を争うくらい好き。ラプンツェルもユージーンも大好き。蛇足でした)
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この物語のとわちゃんは状況は全然違うんだけれど、ずっと閉じられた世界にいて母から「外の世界は危ないよ」と言われて育ったところは似ている。
目の見えないとわちゃんは、母がいなくなったあとも「外の世界は危ない」という母の言いつけを守り、何年も悪夢のような時間を過ごす。
そのとわちゃんが、そこから出ていく術すら知らなかった女の子が、ほんとうに自分の足で出ていく。
そこから全然違う人生がはじまる。
母に彩られた人生から、自分で色を染めていく人生にシフトチェンジする。
ふつうは一次反抗期や二次反抗期を経て、人は大人になっていくんだけれど(そうなりづらいパターンも世の中にはたくさんあるけれど)
それと全然違う在り方で、とわは大人に、ひとりの女性になっていきました。
彼女なりのやり方で、世界と触れ合う。人と触れ合う。植物と、庭と触れ合う。
目が見えないとわにとってそれは視覚を通して得られる世界ではないにも関わらず、その描写は、言葉によって幾重にも鮮やかに彩りを増した豊かな豊かな世界でした。
お気に入りの一節
わたしはそんなふうにして、言葉がわたしの体温と同化して微熱を帯びるまで、じっと待つ。(中略)読書に早い遅いは関係ない。それよりも、どれだけ言葉の向こう側に広がる物語の世界と親密に交われるかが、読書の醍醐味なのだ。
(とわの庭 P157)
自立するようになったとわは、音声図書の存在を知り、盲導犬のジョイと一緒に足繁く図書館へ通うようになります。
そのとわが語る読書についての一節。
大切なことが、ぎゅっとそこに凝縮されているようです。
日々読むことに追われていた自分に自戒したくなるような気持ちになりました(笑
もちろんここだけじゃなくて、日常の描写の至るところに、彼女らしさが表れています。
目が見えないから、外の世界に出るまで知らないことが多すぎたから。
そんな理由だけでは語れないほど、世界の見え方や関わり方はそんなふうに表現できるのだと知ることができます。
物語の力
目が見えず、閉鎖された世界で生きていたとわちゃんにとって、希望ともいえるものが「物語との出会い」でした。
お母さんは、結果的にいうとまあ随分とひどくて可哀想な人だったのですが、幼いとわちゃんに寝る前に物語を読んで聞かせてあげたのは、とても良かったと思います。
とわは物語を通して、自分の外の世界を知ります。物事を。常識を。人を。
つらいときにも、物語はとわちゃんに考える力を与えてくれます。
あの過酷な状況下で生き残れたのは、とわちゃん自身の生命力の強さがありますが、物語も力を与えてくれていたのだろうなと思います。
それこそ目の見えないとわちゃんにとっては、母以外にこの世界を知る術はなかったのですから。
物語がなければ、もっと早くに朽ち果てていたかもしれない。
*
もちろん、過酷な状況に置かれないに越したことはありません。
でも改めて、物語の持つ力に教えられたような気がします。
とわちゃんに物語があって良かった。それは、大人になったとわにも生きる力を与えてくれます。
同時に、この物語が、誰かにとってそういう物語のひとつになると良いなと思いました。
物語を通して、たくさんの出会いや気づきがあります。きっとそこには癒しも。
結び
タイトルに「庭」とつくものは、物語の中心にやはり庭が据えられているように思います。
もうずっと前のことなんだけれど、「庭」をテーマに思索していたことがありました。
▽「庭」について考察した記事
1月の寒いさなか、京都の東福寺へ庭園を見に行ってきました。今回は庭園についての記事です。* * *※この記事の情報は2019年1月のものになります。東福寺の庭 当初は“東[…]
それは、いまも続いていて(長らく休止していて)、どこかのタイミングでまた「庭」をテーマに考えられると良いなあと思いました。
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