今年の夏は、関西でもいろいろ美術展が目白押しです。
今回は、大阪市立美術館で開催されている『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』へ行ってきました。
ドイツにあるドレスデン国立古典絵画館から、貴重なフェルメールの作品と17世紀オランダ絵画がやってきました。
ドレスデン国立古典絵画館
ドレスデン国立古典絵画館は、ドイツ東部ザクセン州の州都、ドレスデンのツヴィンガー宮殿の一角にある美術館です。
主にルネサンス期、バロック期のイタリア絵画、17世紀のオランダ絵画、フランドル絵画を収蔵しています。
フェルメールの作品は、《窓辺で手紙を読む女》と、《取り持ち女》(こちらは3年前のフェルメール展のときに来日)が収蔵されています。
今回は、フェルメールの修復された《窓辺で手紙を読む女》に合わせて、17世紀のオランダを代表する画家の作品が約70点展示されています。
フェルメールのみならず、当時のオランダ絵画の空気感も感じることのできる貴重な展覧会です。
《窓辺で手紙を読む女》修復プロジェクト
《窓辺で手紙を読む女》は、フェルメールの初期の作品。
フェルメールのスタイルを確立したとも言われる初期の傑作です。
1979年の時点で、X線調査によって壁にキューピッドが描かれた画中画(絵のなかに描かれる絵画)が塗り潰されていることが判明しました。
長年、それはフェルメール自身の手によって消されたと考えられてきました。
しかし、2019年(キューピッドの絵が隠されていることが判明して40年後!)、最新の調査結果によって、キューピッドの画中画はフェルメールの死後に何者かによって消されたことが判明したそうです。
なんてもったいないことを!!? と現代の認識では思いそうなところですが
当時はフェルメールの評価は高くなく、この絵も別の画家の作品として出回っていたそうです。
ちなみに、誰がなんの目的で、キューピッドの画中画を意図的に消したかは、わからないそうです。
ミステリーですね。それだけで物語が生まれてきそうな気配があります。(ワクワク)
画中画の塗り潰された絵具の部分、そして長年の汚れや変色によって劣化した古いニス層を取り除き、気の遠くなるような長い時間をかけた緻密な修復作業を経て、2021年9月にフェルメールが描いた当時の姿が、ドレスデンの収蔵館でお披露目されました。
会場では、修復プロジェクトの模様を動画で見ることができます。
ほんとうに気の遠くなるような繊細な作業でした。
今回の展覧会では、収蔵館であるドレスデン国立古典絵画館以外では、世界初めての公開となるそうです。
遠路はるばるやってきたフェルメールの初期の傑作、当時の息遣いを感じられる作品を見ることができます。
展覧会概要
今回の展覧会は、東京、北海道、大阪、宮城と巡回するようです。
東京:東京都美術館 2022年2月10日(木)〜4月3日(日)※終了
北海道:北海道立近代美術館 2022年4月22日(金)〜6月26日(日)※終了
大阪:大阪市立美術館 2022年7月16日(土)〜9月25日(日)※開催中
宮城:宮城県美術館 2022年10月8日(土)〜11月27日(日)
もちろん看板作品はフェルメールのかの作品ですが、そのほかにも17世紀オランダ絵画が一堂に介しています。
第1章 レイデンの画家——ザクセン選帝侯たちが愛した作品
第2章 レンブラントとオランダの肖像画
第3章 オランダの風景画
第4章 聖書の登場人物と市井の人々
第5章 オランダの静物画——コレクターが愛したアイテム
第6章 複製版画
第7章 《窓辺で手紙を読む女》の調査と修復
大トリはもちろんフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》です。
感想
以前行ったフェルメール展でも当時のオランダ絵画も展示されていましたが、今回のほうがそれぞれのテーマが明確でわかりやすかった印象があります。
当時の絵画に込められた意味も解説してあって興味深かったです。
例えば静物画によく描かれるレモンの意味とかね。
貴族だけでなく、裕福な市民階級も絵画を求めるようになった時代。
当時の歴史や風俗、人々の息づかい、考え方、いろいろなものが込められています。
いろんなことを想像しながら鑑賞すると、面白さが増します。
今日の一枚:《窓辺で手紙を読む女》
やっぱり今回はこちら。わたしの好きな、物語のあるフェルメールの作品。
別の画家ザビーネ・ベントフェルトによる、修復前の《窓辺で手紙を読む女》の複製画や、スティール・エング・レーヴィングによる複製版画(こちらも修復前の絵に基づく)も見ることができます。
残念ながらわたしは、修復前の《窓辺で手紙を読む女》を見たことはないのですが
(運の良い方は、ドレスデンで現物をご覧になったことがあるかもしれません)
きっと、修復前の作品を見ても、それはそれで感動しただろうなと思います。
長年この作品は、壁には何も描かれていない状態でひとつの作品として、完成されたものとして見なされてきたのです。
修復前の絵と完全に比べることはできないけれど
もう、全然違います。絵の印象が。
それは、キューピッドの画中画が現れたことはもちろんですが
彩色の鮮やかさが再現されたことも大きい。
ニスの経年劣化で黄色がかっていた絵が、色鮮やかに蘇りました。
どこまでも緻密に美しく描かれている。
そして、手紙を読む女性の姿は、壁に画中画があるのとないのとでは、印象ががらりと180度変わります。
修復前の絵は、黄色がかった色味も含めて、どこか物憂げな印象でした。
修復後の絵は、それが愛の手紙であり、女性の心情まで瑞々しく表現されています。
当時のフェルメールが描いたものが、こんなかたちで今この現在に出会うことのできた奇跡。
これはもう、奇跡としか言いようがありません。
・・・と、素直で単純なわたしはひたすらに感動して、飽きもせずにフェルメールのこの作品をずっと眺めていたのでした。
一瞬を切り取った絵画、いつも眺めると、その一瞬に吸い込まれそうになります。
出会えて良かったなと思う瞬間です。
結び
東京展、北海道展は終了してしまいましたが、大阪展はまだまだこれから。
宮城でも開催されるそうですよ。
フェルメールがお好きな方は、ぜひ!
関連情報
▽大阪は2022年7月16日(土) 〜 9月25日(日)までの開催です。
大阪市立美術館は、特別展(大規模な美術展)や、収蔵品の展覧会、全関西美術展、日展などを開催している、歴史ある大阪の美術館…