初海堂尊さんの本です。
「チーム・バチスタの栄光」は超有名なので名前は聞いたことがあったけれど、本書を読んだときには未読でした。
※2022年5月追記
その後、バチスタシリーズも読みました。
導入
7月くらいに「小説が読みたい!」と図書館で大量にいろんな本を予約して、その予約待ちだった本が最近になって色々入ってきている状況です。本書もその一冊。
海堂尊さんは初めてだったのですが、これは中学生くらいの若者向けに書かれた本なので、医療系ものを初めて読むわたしにもとっつきやすかったです。
ヨシタケシンスケさんの挿絵も、物語の雰囲気にマッチしていて素敵。
ヨシタケシンスケさん、密かにファンです。
感想
中学生の曾根崎薫くんが、ひょんなことから「日本一の天才少年」になり東城大学の医学部で研究することになるお話。
実際の薫くんは歴史オタクではあるけれど天才少年ではなくて、でもけっこうお調子者なのでそのままひょいひょいと医学部に行っちゃうところが面白い。
脇を固めるキャラクターも、みんなそれぞれ個性派揃いです。
読んでいてまず思ったのは「お医者さん(ここでは作者のこと)はやっぱり頭が良いなあ」ということ。
物語でも、医学用語以外にも初めて聞く言葉がポンポンと出てきて「おおっ」と別の意味で驚きました。
たまにお医者さんと接することがあるのですが、もう知能指数の差が全然違うなと感じます。
*
話を物語のほうに戻しましょう。
薫くんは「なんちゃって天才少年」なので、そういう意味では読者に親しみやすいのですが、お父さんはゲーム理論の天才だし、物語の進行にはこの天才お父さんの力がかなり関わっています。
最後のいちばん大切な勇気は、主人公である薫くんに託されているし、綿密な業務日誌があればこそなのですが、でも背景に大人の力も(藤田教授はもちろん)すごく見えるなあと。それが良いのか悪いのかは別にして。
そうして、最後に桃倉さんが責任を被って去って行くところも「大人の力」の別の側面が描かれていると思います。
そういう意味で、これは中学生を通して垣間見える医学の世界のみならず、大人の世界も描かれているお話なんだなあと思いました。
医学って命に関わる崇高なことを行う学問でもあるけれど、でも実際は崇高とは真逆のドロドロとした世界もそこにはあって。(ある意味人間らしいともいえる)
そこで繰り広げられる大人の駆け引き。ちょっと(かなり)汚いやり方もある。
そこにどう立ち回るかを、ゲーム理論のお父さんよろしく、これは戦略ですし。
最後の桃倉さんの立ち振る舞いは、大人が責任を取る、ひとつの表現であった。
あ、あとマスメディアの忖度もまた大人の世界ですよね。
桃倉さん、この物語のなかではすごく良い人でかつ魅力的な方だと思います。
実験はちゃんとやっているし、間違ったことは言ってないし、最後には全体を見て自分が責任を取ることでその場で最も被害が少なく済む方法を選んでいる。
同時に、これは推測なのですがこのまま東城大学にいても(藤田教授のもとで研究を続けても)博士号は取れないということで自分の身の振り方を決めることでもあった。
一見すると地味でそんなに格好いいキャラクターではなさそうなのですが、実は人としてめちゃくちゃ格好いいキャラクターだと思います。ドンドコの読者なのも親しみの持てるところ。
単純に、病院で患者さんを診察したり手術したりするだけがお医者さんの仕事じゃないんだよ、と知れることも面白みですが(しかも現役のお医者さんが書かれているので専門的にも裏打ちされている)
データの改ざん(これ、STAP細胞騒動が起こる前に書かれているお話!)のあれこれや
大人のいろんな思惑や
果てはゲーム理論まで
いろんな要素を、薫くんという等身大的中学生(天才少年じゃないところが良い)を通して体験できる。
面白みが何層にも重なる物語だなあと思いました。
なかなか味わい深く、わたしにとっては良き新たな出会いとなりました。
孫子の本も久しぶりに読み返したくなっちゃった。
続編「医学のひよこ」
今年は、なんと「医学のたまご」の続編「医学のひよこ」が登場したのですね。
▽海堂先生のインタビュー記事
「小説 野性時代」さんで今年の4月から連載されているそうです。
また本が刊行されたら読んでみたいなと思います。
結び
あと、「チーム・バチスタ」も読んでみようかなと思案中です。
最近新聞の記事で、海堂先生がチーム・バチスタでも新型コロナウイルスを扱った小説を書かれたと読み、そちらも興味津々です。
最近読みたい本がいっぱいあって困る……
関連情報
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「医学のひよこ」から、一気に海堂尊さんの本を3冊読んでしまいました。別々に分けようかなとも思ったのですが、全部ひっくるめて感想いってみまーす。 ※本のネタバレが少しあります。未読の方はご注意を。「つばさ」以[…]
noteにも海堂尊さんの本の感想を載せています。