「医学のひよこ」「医学のつばさ」「コロナ黙示録」「チーム・バチスタの栄光」海堂尊

未来へ羽ばたく「医学のつばさ」海堂尊

「医学のひよこ」から、一気に海堂尊さんの本を3冊読んでしまいました。

別々に分けようかなとも思ったのですが、全部ひっくるめて感想いってみまーす。

 

※本のネタバレが少しあります。未読の方はご注意を。「つばさ」以外は大きなネタバレはありません。

※読んだ順番で感想を書いていますが、物語の時系列的には、

「チーム・バチスタの栄光」→(長い年月)→「コロナ黙示録」→「医学のつばさ」です。

気になったタイトルだけ感想を読んでいただいても。お好みで。

 

医学のつばさ

いよいよ「医学の~」シリーズも最後になりました。

 

「医学のひよこ」では、絶望的なところで終わって、そこからどうやって物語が展開していくのか。

「医学のたまご」のときよりもさらに壮大に、予想もしていない方向に物語は幕引きとなりました。

 

子どもたちが当事者であり続けること

「医学のたまご」のときにも、医学生(中学生)の立場から、大人の世界が描き出されていました。

「たまご」では、カオルくんの父である曾根崎教授(ゲーム理論の大家)が、カオルくんを影からバックアップしてくれていました。

表では「チーム曾根崎」とカオルくん本人のがんばりや、桃倉さんという責任を取る大人の存在もあって、万事まるくとは言わないけれど、それなりの終着点が見出されました。

 

今回は、さらにさらに複雑。

前は藤田教授というわかりやすい人がいましたが、今回は「誰が味方で誰が敵なんだろう? そもそも敵味方ってそんな単純なものでもない。誰がいのちちゃんを守ってくれる? ”守ってもらう”という受身的な発想もできない。じゃあ比較的力になってくれそうな人は誰だろう??

 

という攻防戦。カオルくんたちは、大人たちの思惑のなかで駆け引きに駆け引きを重ねながら、自分たちが優先させたいことのために戦います。

戦うのも敵を倒すというわかりやすいものではなくて、いのちちゃんを守るためにどう行動したらいいか、誰とどういうやりとりをしたほうがいいか。

 

今回は、ブレインで頼みの綱だったカオルくんの父親は最後の最後まで不在です。でも、その代わり力になってくれる大人はいます。

しかししかし「あとは大人に任せていれば大丈夫」という問題でもなく、あくまでカオルくんたちの行動にかかっていました。最後まで当事者だったし、自分たちが当事者であろうとした。

なぜなら大人たちに任せてしまうと、いのちちゃんは大人たちによって利用されてしまうから。

 

どんな思いも、口に出さなければ、相手には伝わらない。

だから、伝わらないと思っても、口にしなければダメなんだ。

世の中は、すべてダメモトでできているんだから

(医学のつばさ P256 第14章 人生は、行き当たりばったりのでたとこ勝負。)

 

たぶん大人の汚いところもいろいろ見せつけられたと思うけど、一方でそうじゃないところも見て、そんなカオルくんが思ったことは、とても大切な真理であるように感じました。

 

カオルくんの成長。つばさは羽ばたくためにあるもの

「医学のたまご」のときよりも、カオルくんも、その仲間たちも、ずっとずっと成長しました。

カオルくんが、最後に自分から東城大医学部を自主退学し、医学部を目指すと決めたことは、そういった一連の出来事がもたらしたひとつの成果でした。

 

実はけっこうエリートな集まりの「チーム曾根崎」のみんなのなかで、カオルくんがいちばん平凡そうな子でした。

けっこうヘビーな出生の秘密と両親不在の環境にいたにもかかわらず「平凡な子」でいれたのは、実はすごいこと。

山咲さんはじめカオルくんのお父さんのマメな朝食メールとか、そういう細くて長い温かな関わりがあったからでもあります。

 

わたしは、最後にカオルくんが「生まれて初めてパパに会うんだ」とドキドキしていて、これまで会ったことがなかった事実を改めて知り、驚きました。

最後のパパとの対面は、まるで生まれてきたときの対面みたいなシーンで

「医学のたまご」からはじまったカオルくんの物語が、ひとつ終わりを遂げ、そして新たにはじまる瞬間でもあったのかなあと思いました。

(双子の妹である忍ちゃんも同じようにパパとは初対面なのですが、母と一緒に暮らしてきた彼女の体験は、カオルくんのそれとはまた違った体験なのだろうと思います)

 

わたしはこの後「コロナ黙示録」→「チーム・バチスタの栄光」と、田口・白鳥コンビの世界へ別の意味で「羽ばたく」わけですが(笑)、桜宮シリーズのいちばん最初の入り口が、カオルくん目線の「医学の〜」シリーズではじまったのは、それはそれで悪くない体験だったなあと思います。

ちなみに2021年11月中旬現在、「新装版 ナイチンゲールの沈黙」を読み進めていて、「これはひと通り読み終わったらまた読み返さないとなあ」と思いました。

「医学の〜」シリーズには、田口先生はじめこれまでの桜宮シリーズのいろんな人が登場していて、古参のファンのみなさんにとっては違った感慨が生まれるのだろうなあと。

 

コロナ黙示録

 

ものすごい世界に足を突っ込んでしまったのではないかと思いました。

海堂尊さんが、現役医師の作家さんであることは、世情に疎いわたしでも知っています。

だから医師でもある著者がどんな視点でコロナを見ているのか気になったのですね。

いやあ、てっきりエッセイか何かかと勘違いしておりました。(※これはれっきとしたフィクション小説であります!)

 

たぶん「桜宮サーガ」を堪能している読者さんには、馴染みのある世界なんだろうけど、

「医学のたまご」から入ったわたしは中学生のカオルくん並みに知らない世界に足を踏み入れた感覚でありました。

という、超初心者の立ち位置の人が感想を書いていることを前提に読み進めていただけるとありがたいです。

 

コロナをパラレル・ワールドで描く

昨年の7月という時期に、これだけの本が出版されているという事実にまず驚きました。

7月って、まだコロナの第一波がおさまって、ちょっとずつ動きのある生活が戻ってきた時期だけどまだ不安ならない時期ですよー。

つまり、わたし個人はまだまだ翻弄されていた時期でもありました。

ああ。1年前にこの本に出会っていたら。

全然関係ないのですが(この物語はフィクションなので)、先月読んだこの本。

前回、「医学のひよこ」のときにも紹介しましたが。

 

 

こちらはフィクションではなく新書ですが、こちらを事前に読んでいると、さらに本書の味わいが増えるかなと思いました。

わたしはなんでその本を読んだかまったく経路を覚えてないんだけど。たしか某熱帯雨林で見かけて読んだのです。(このブログには感想は書いていません)

 

田口さんも白鳥さんも「医学の~」シリーズでしか知らないので、カオルくん程度の知識しかありません。(カオルくん目線でいくと、パッとしないけどなんかすごいらしい東城医大の先生と、変な色彩のロジカルモンスターなお役人)

だから、そういう昔からの馴染みの彼らの活躍ぶりは、正直古株のファンの皆さまのようにはとても追いつけません。

でも、それでもぐいぐいと引き込まれていくストーリー展開でした。

 

「『安心』を追い求めたら破滅します。『安心』は感情的で、そこに盲従がつきものだからです。私たちが追求すべきなのは『安全』です。これは論理的に希求できますから」

(P280 第19章 星に祈れ)

 

「何かあれば離散集合自由自在、それが我ら『梁山泊』です。ゲリラはいつもワンマン・アーミーなんです」

(P350  24章 梁山泊始末記)

 

印象に残った一節です。

格好いいなあというと、なんとも単純な感想でお恥ずかしいのですが、キリリとした為人が表れているなあと思います。

 

この本を読みまして、わたしは桜宮サーガの世界に迷い込んだ人のひとりになってしまいました。

たぶん「医学のつばさ」で終わっておけば、わからなかった世界です。(そのうち読もうかなあとは思っていたけれど)

続編の「コロナ狂想録」も、読みます。読みます。

 

 

 

チーム・バチスタの栄光

 

はい。というわけで。海堂尊作品としては1作目。入門書みたいな本。

わたしにとっては海堂尊作品4冊目。

ベストセラーに疎いわたしでも、そのタイトルを聞いたことがある有名な本です。

 

なんで今まで読んでいなかったんだろうというくらい面白かった!

「医学の〜」シリーズよりも大人目線なので、キレッキレです。

 

そうだ。わたしは医療系はあんまり好きじゃないから関心がなかったんだ。なんてもったいないことをしたんだ。

 

田口&白鳥コンビ誕生のお話

「医学の〜」シリーズと「コロナ黙示録」で、田口先生や白鳥さんはじめ、高階病院長、藤原さん、その他いろいろなメンツを知っていると、なんだかタイムスリップしたような心境です。(そうじゃなくてこれまでの土台に構築されたのが「医学の〜」や「コロナシリーズ」なんだけど、入り方を間違えちゃってほんとうに変な感じ)

 

カオルくん目線の田口先生と、コロナ黙示録のある程度歴戦を積んだ(?)田口先生しか知らないわたしには「わあ、田口先生ってこんなに面白い人だったんだ!」と逆に新鮮。

白鳥さんは全然イメージのブレない人なので、こちらは特に新鮮味もなく。(ある意味すごい人ですよね、ロジカルモンスター)

 

田口先生も白鳥さんもどっちも組織では凸凹した人なので、その凸凹具合がうまいこと組み合わさると最強コンビになる(田口先生は超迷惑そうな)のがなんとも面白い。

病院を舞台にしたミステリー調のストーリーも新感覚だし(医療系に疎いわたしにはすべてが新鮮なんだが)、最後の最後まで楽しめました。

 

チーム・バチスタの栄光」というタイトルも、かっこいいし語感もいいし、物語にこれでもかというくらい当てはまっているし。

 

え? なんかめずらしくべた褒めしているよ。

はい。それくらい久しぶりにハマってしまいました。

古参のファンのみなさまには申し訳ないくらい遅咲きのファンなのですが。

どうぞ、これからよろしくお願いします。(どこに向かってあいさつしているんだ)

 

 

 

結び

というわけで、たくさんある「桜宮サーガ」シリーズを、これからちょっとずつ読んでいきたいなと思います!

次は「ナイチンゲールの沈黙」です。

「医学のつばさ」を先に読んでしまったわたしは、そこはかとなく佐々木さんやSAYOさんたちの気配を感じるので、またタイムスリップしそうな予感です。

 

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