待望の16巻です。
1冊にぎゅっといろんなものが詰まっています。
※ネタバレを含みます。未読の方はご注意を。
クリスマス
クリスマスといえば、2巻の安井六段との対決や、幸田のおうちでのクリスマスなど、零にとってはあまり良い思い出ではありませんでした。
それが、川本家と出会って3年目のクリスマスには。
クラスメイトと一緒にお昼囲んでいるし。ふつうに雑談しているし。
かわいい彼女(ひなた)と、クリスマスの買い物しに行ってるし!
なんかもう気分は孫の成長を見守るおばあちゃんです(子どもじゃなくて孫ですか)
パズルを買ってもらって喜ぶひなちゃんかわいいなあ。
川本家のクリスマスプレゼントの定義「年末年始にみんなで楽しめるもの」もとっても素敵だなあ。
クリスマスツリーを見て、今でもまだ胸がビリっと痛むことがあって、でもその痛みの意味を考えるというのも
羽海野さんの作品らしくほんとうに細やかなところまで描かれていると思います。
単に、クリスマス楽しいねー良かったねーじゃないところが良い。
それでもひなちゃんと笑ってクリスマスの買い物に行けるようになったことは、とても良いなあと思います。
宗谷さんところ
思わぬところで変化球が来た。宗谷家ー!!(机バンバン)
京都弁宗谷さん。なんですか、悶え死にそう……普段話さない人だから余計に……!!(ミノリさんキモいです)
たまちゃんなる初登場の人物に「え? おばあちゃんと二人暮らしって言ってなかったっけ? 奥さん? え? 子ども???」ともう衝撃の嵐だったんですが(脳内忙しい)
複雑な事情で同居している人でした。
なんだかライオンらしくて、こういう関係性も良いなあと思いました。
いつのまにかひびきくんやたまちゃんのためにケーキまでお土産で買って帰るようになった宗谷さん。意外すぎる一面。素敵すぎる。
そして宗谷祖母は、めちゃくちゃオトコマエな京女でした。宗谷さんの倍くらい素敵すぎる。
ちゃっかりもう常連になっている土橋くんと秘密基地で研究している宗谷さん。
たまちゃんの多くは語らない物腰も、たぶん自分の領域に土足で踏み込まれるのを嫌いそうな宗谷さんからすると、ちょうど良い距離感なんだろうなあああ。
宗谷家また出てきてほしいなあと思いました。
ジグソウパズル祭り
今回の限定版の付録にもなっているジグソーパズル。
発売前の情報で(コミックス派なので雑誌のほうは全然知らない)、「え? なんでジグソーパズル??」と思ったのですが、コミックスを読んで納得。16巻は川本家ジグソウパズル祭りの巻ですよ。
ときどき出てくる川本家のこういうところがすごーく好きです。
日常をワクワクな特別な日にさせる天才だなあ。
いつもよりも贅沢に用意したお菓子の山、煮込んで次の日の献立使い回しまで計算されたポトフ、そしてパズルを存分に楽しむための工夫。
なんか素敵だなあと思いました。お金をそんなにかけなくても、楽しくて幸せでワクワクすることはいくらでも創造できる。
そして、それを楽しむのは「みんなで楽しむ」ことだともわかっている。
川本家の動き
これまでにもチラチラと出てきていた、あかりさんとひなちゃんの三月堂を自分たちの手で継いでいきたいという構想。
今回は
- ひなたの「高校卒業したら三月堂を継ぎたい」と零に告白すること
- 三月堂のお隣の花田さんのお宅の土地の件
と、いよいよふわっとしていたものが現実味を帯びてきました。
特に土地の件は、お金も絡んでくるのでなかなか容易ではありません。
でも川本家の人たちの常識的だなあと思うのは、「誰かの力をアテにしないと叶わない夢じゃ計画自体に無理がある!!」と言えること。
こんなふうに言える20代のあかりさん、大人だなあ。
いや、もうふっつーに未来の名人桐山棋士の力を借りても良いんじゃね? と思っちゃいますよ。
ひなたのいじめ問題のときにすでにあれだけの電卓を叩き出した男ですよ?
本人は「結婚します」宣言もしちゃっているんですよ?(なかったことにされているけど)
現在進行形でひなちゃんにメロメロなんですよ?
むしろ奴なら喜んで出資するやろう。
ちゃんと二人の未来に選択の余地を残して考えようとする川本家は、なんてマトモなんだろうと。
現実的にクリアしないといけない課題はいろいろあるんだろうけど、漫画のなかのお話だけれど、三月堂拡張計画が実現できると良いなあと思います。
キヨさん(花田さん)の言葉にもあるけれど、コンビニや小型のマンションになるよりもずっと素敵です。
零とひなた、1巻からの道すじ
巻を増すごとに、零とひなたの距離が縮まってきました。
なんだこの超かわいいカップルは……!!?(本日2回目の机バンバン)
ひなちゃんが、真剣に零くんのことを考えてくれていて、川本家の子だなあと思いました。あかりさんもひなちゃんも、あんなダメ父がいながら良い子に育ったなあ(ホロリ)
「お天気の日ばかりじゃいられないんだから かわりばんこにはげまし合って行けばいいんだ」
川本家の亡き祖母の言葉です。
ずーっと零はひとりでがんばってがんばって生きてきて
幸田さんのところには負い目もあって家を出て
ほんとうにひとりでやっていこうと、誰にも迷惑かけないで生きていこうとがんばってきた人。
でもそれは孤独で闇のような毎日で。
15巻で久しぶりにそれが戻ってきたんだけど。
やっとなにか、ひとつの答えというか、そういうものにたどり着こうとしています。
それはひとりではたどり着けなかった答えで。
最初はAルートしかないと思っていた。
でもBルートもあるんだと、それはでも一度知ってしまうと引き返せない危険なものだと警戒心を抱いて
AかBかの二者択一で悩んでいた零に、ひなたは全然違うCルートを導き出してくれました。
二階堂くんが、零との対局中に「探しはじめたんだな。全身全霊で別ルートを。ーーやっと辿りつけたんだな。お前のその名と同じ場所 始まりのスタートラインに」と心の声で呟いていて。
1巻の冒頭の香子さんの零の名前いじりと「ゼロだってー変な名前〜」
16巻のここが、やっとここまで来たんだなあと感慨深いです。
二階堂くんの心の声は零にはまったく届いてないんですけど。
そして、きっと二階堂くんは、零とは違う別ルートを探していくのかもしれません。
そんな予感のする最後でした。二階堂には二階堂の物語があって、それは零とはまた違う過酷な物語なので。そうなったらいいなと思いました。
過酷な状況にいると「もう自分はそこにしかいれない」と絶望的な気持ちになるし、そのなかで発揮される力も確かにあります。
そういう世界にいるとぬるま湯のような心地良い世界にいるのは悪いことのように感じるし
そんなところにいたら、強さを発揮できなくなるとそれは甘えだと思ってしまうこともあるけれど
でもそうじゃなくて。
自分が安心できる世界にいることで、発揮される力もあるんだと。
そして長い目で見るとそっちのほうが柔らかさもあるしなやかな強さになるのではないかと思います。
ひなたが零の将棋を尊重するから、零もひなたのことをもっともっと大事にしたいと思える。
一方通行ではなくて双方向の関係性だから、良いのです。
そしてそういうのって、終盤の対局で二階堂くんが何かを感じ取ったように、人と人のあいだで波及していくものでもあるんじゃないかなあと思います。
それってとっても素敵ですよね。
結び
ずーっと長く苦しい旅路を見守ってきて、主人公くんの存在意義を忘れることも時々ありましたが、ここに来て出口がやっと見えてきたなあと、嬉しさと共に少し寂しさの入り混じる16巻でした。
羽海野さんの作品は1巻の情報量が多いので、まだ拾いきれていないところもありそう&これまでの流れをもっかい復習したい(1〜15巻まで通しで読み返したい)ので、また感想を書き足すかもしれません。
関連情報
▽15巻の感想
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