グランマ・モーゼス展ー素敵な100年人生 in あべのハルカス美術館

 

やっとやっと、行けました。感涙。

大阪はあべのハルカス美術館で4月17日〜6月27日まで開催です。

開催1週間後に緊急事態宣言で閉館、6月1日からやっと再開(20日までは土日休館)、最後の1週間のみ土日開催と、緊急事態宣言中の開催となりました。

しかも、全国を巡行されるので開催期間延期もなさそうです。涙。

 

わたしは、当初の予定ではゴールデンウィーク前の平日に有休を取って行くつもりでした。

6月に入ってやっと開いたので(本気で20日以降の1週間しかチャンスがないかと心配していました……)、ちょうど平日に外出するタイミングを狙って行ってきました。

これはぜひ行きたいと買っていた前売り券が無駄にならなくて良かったです。

 

というわけで、大阪のハルカス美術館はこの記事を書いている時点でもう残りわずかとなってしまいましたが、そのあと4会場控えておりますので、これから開催予定の地域の方々にも参考になると良いなと思ってこの記事を書いています。

 

グランマ・モーゼス

 

1月にロンドン・ナショナルギャラリー展に行って、次はどこに行こうかなあと調べていてこちらのグランマ・モーゼス展を見つけました。

しかし、お恥ずかしながらわたしはモーゼスさんを知りませんでした。

 

”人生は自分で作りあげるもの。これまでも、これからも”

グランマ・モーゼス

 

グランマ・モーゼスことアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)はアメリカのニューヨーク州東部で生まれました。

人生の大半を農家の主婦として切り盛りしてきた彼女。

刺繍絵がもともと得意でしたが、人生の大半は平凡なアメリカ農家の一主婦として生活してきた女性です。

別に絵の勉強をしていたわけではないし、幼い頃から芸術に造形が深い家庭で育ったわけでもない。10代は奉公に出ておられましたし。

 

そのモーゼスさんが、70歳で夫を亡くしたあと、結核の娘を助けるためにバーモント州ベニントンへ移り住みます。

そこで趣味でしていた刺繍絵がリュウマチでできなくなって、そこから本格的に絵を描き始めるのです。

 

え? 70代から絵をはじめたの??? (本格的に筆を取ったのは76歳とされています)

 

びっくりですよね。でも、モーゼスおばあちゃんはここで終わりません。

 

なんと80歳ではじめての個展を開き、亡くなる直前の100歳まで絵を描き続けたのです。

アメリカでは国民的な画家として愛され、亡くなったときには当時の大統領(アイゼンハワー)からも追悼が送られるほどでした。

 

日本では16年ぶりの回顧展なのだそうです。

 

今回の展覧会の概要

この展覧会は、4部構成になっています。

第1章 アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス

第2章 仕事と幸福と

第3章 季節ごとのお祝い

第4章 美しき世界

 

生い立ちからはじまり、どのように絵をはじめたのか順を追って知ることができます。

刺繍絵も何点か展示されていましたが、刺繍とは思えない美しい作品でした。

 

一通り回ると、グランマ・モーゼスの人生をざっとたどれるように構成されています。

 

感想

展示されている絵には、何歳のころの作品か書いているのも、この展覧会の特徴です。

 

100歳の作品も何点かあって、これが100歳のおばあちゃんが描いたの? とびっくりするくらい生き生きとした色づかい、繊細で温かな絵ばかり。

約20数年分の作品が展示されていましたが、モーゼスさんの作風・スタイルはブレません。

自分の生きたアメリカ東部の風景と、そこに生活する人々の様子を描いている。

絵だけを見たら、何歳のころの作品かわからないくらいです。

 

でも変わりばえがしないかというと、そうでもなくて。

 

一貫したスタイルは持ちつつも、ときに嵐の日を描いたり、季節ごとの人々の様子を描いたり、バラエティにも富んでいます。

全体的には、明るい色彩を使うこと、アメリカ東部の自然の風景を全景おさめてそこに住まう人々を描いているのが特徴的でした。

 

遠近法で正確に描くよりも、1枚の絵におさめることを目的としているそれらの作品は

一見すると、てんでバラバラのように見えて綿密に計算されて構成されていることがわかります。

セザンヌの作品で誰かが言っていたような覚えがあるのですが、あえて(遠近法を)崩して描くことで、訴えかけるものが浮かび上がってくる。そして人々のこころをとらえる。

人が人たらしめる世界なんだろうなと思います。

 

今回は、グランマ・モーゼスが使用していた作業テーブルも展示されていました。

それはもともと絵を描くためのテーブルではなかったものを、足部にモーゼスさんが絵を描いて、作業台として使っていたもの。(この、足部の絵がキャンパスと同じように緻密!)

 

特別なアトリエなどは持たなかったモーゼスおばあちゃん。

絵具も、何度も使ってボロボロだったり、使った瓶(化粧瓶だったかな?)を再利用していたり、なんというか「画家さん」という感じが薄いのです。

それよりは、生活の延長上に絵を描くことがあって、絵を描くことは生活、暮らしの一部だった。それもごく自然に。そういう印象でした。

 

刺繍絵からはじまったとも言えるグランマ・モーゼスの絵を描くこと。

でも、その刺繍ももともとは日常の裁縫の延長です。

当時の農家では、服などの日用品は、女性が自分たちの手で縫ったり編んだりしてこしらえていました。

 

モーゼスさんの描く世界は、自分にとってごく当たり前だった日常の風景そのものです。

だから、絵を描くことはモーゼスさんにとって、裁縫や料理と同じような日常の暮らしの延長に存在していたんだろうなあと思いました。

だからこそ、息をするように100歳まで絵を描きつづけることができたんでしょうね。

 

そんなモーゼスおばあちゃんの絵は、明るい色彩で素朴でやさしいものばかり。

不思議です。絵に囲まれているだけで、こころが穏やかにやさしい気持ちになります。

アメリカで多くの国民に愛されていたことがわかるような気がします。

 

どちらかというと前時代的な、今からすると不便な時代に育った人で

生活の延長というと聞こえは良いけれど、いまよりもずっと不便なことも多かったはずです。

でも、モーゼスさんの世代にはそれが当たり前で、不便を不便と厭うよりも、ものごとの明るい面を眺めてそれを絵に表現している。

そこに描かれているものは、時代が早く早く進むようになって置き去りにされていたものでもあるような気がしました。

 

グランマ・モーゼスに見る人生100年時代

「人生100年時代」という言葉が、めずらしくなく囁かれるようになりました。

そんなことが謳われるもうずっと前に、100年時代を生きたモーゼスおばあちゃん。

 

わたしは、実はこの「100年時代」という言葉が嫌いです。

正直、100歳まで生きなくて良いと思っている。

いまでも生きることが手に余るのに、これがあと50年以上も続くなんて考えただけでうんざりする。

 

でも、わたしがそんな風に狭い了見でものごとを見ているよりも、ずっとずっと広くて自由なところで生きた女性がいたと知り、なんだかそんな風に考えていた自分が恥ずかしくなりました。

人の生き死には、自分では決められないこと。

 

グランマ・モーゼスの生きた軌跡は、高い志のもとに画家になったのではなくて

生死も自然も、生きる厳しさも知った上で(それは、田舎の農家の日々の暮らしの厳しさ然り、子どもを喪った哀しみ然り)の、日々の営みだったのだろうと思います。

 

「100年時代を生きるぞー」と意気込んでいても、病気になって長生きできないかもしれない。

逆に長く生きたくないと思っていても、誰よりも長生きするかもしれない。

そこは決められない。なら、決められるのは? そのなかで自分が日々なにを選択するか。

 

たぶん鑑賞する人の年代によってもいろんなことを想起させてくれそうです。

そういう懐の深さも、モーゼスおばあちゃんらしいなあと思いました。

 

今日の一枚:「ご褒美で買ったもの」

いつも美術展に行くと、そこでのとっておきの一点を選びます。

それは、うまく言えないのですが、無性に自分が惹かれたもの。理屈ではなく直感で選ぶ一枚です。

今回は、「ご褒美で買ったもの」という絵です。1947年、87歳の頃の作品。

 

絵の背景は詳しくわからないのですが、絵のタイトルからいつもとは違う特別な1日という感じがします。

モーゼスさんの絵は全体的に明るい色彩なんだけど、この絵は格別にわたしには明るく映りました。

背景の自然の風景が、パットワークのように色とりどりで、近景の街並みはわくわくとした浮き立った気持ちになります。

 

残念ながら絵はがきには選ばれていませんでしたが

こちらはSOMPO美術館に収蔵されているそうなので、もしどうしてもまた見たくなったら東京まで足を運べば見ることができます。

頭に付箋を貼って、覚えておこう。

 

おまけ:ハルカス美術館のお次はポーラ美術館展

 

ハルカス美術館では、もう次の告知がはじまっていました。

お次は、ポーラ美術館コレクション展

 

実はワタクシ、前々から箱根にあるポーラ美術館に行きたいと思っていたのですよ。

遡ること2年前、大原美術館に行って、私立美術館も良いなあと思いまして。

 

しかし、コロナで遠出ができなくなってしまって、できなくなった分「ぜひ行きたい!」と思いが募りまして。

コロナが落ち着いて遠出しても大丈夫になったら行こうと「行きたいところリスト」の上位にリストアップされていたのです。

 

そうしたら、ポーラ美術館のほうからこちらへやって来てくれました。おいでませ。

いつの日か、現地へ足を運ぶ予行演習を兼ねて、こちらも行きたいなあと前売り券を用意して待ち構えております。

 

※2021年7月24日追記

ポーラ美術館コレクション展へ行ってきましたよ。

ポーラ美術館コレクション展の記事はこちら

 

関連情報

▽グランマ・モーゼス展の公式ホームページ

▽今後の開催予定

2021年7月10日〜9月5日 名古屋市美術館

2021年9月14日〜11月7日 静岡市美術館

2021年11月20日〜2022年2月27日 世田谷美術館

2022年春(時期は今後告知) 東広島市立美術館

全国5カ所を回るそうです。

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*各美術館へのリンク

▽あべのハルカス美術館(大阪)

あべのハルカス16F、誰もが気軽に芸術・文化を体験し楽しめる「都市型美術館」です。…

▽SOMPO美術館(東京)

SOMPO美術館

SOMPO美術館(旧館名:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)ゴッホ《ひまわり》を収蔵。新宿駅 徒歩5分…

▽ポーラ美術館(神奈川県)

ポーラ美術館

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