前回ぼんやりとして語り尽くせなかったところで、今回は登場人物に焦点を当てて感想を書いてみたいと思います。
良かったらお付き合いくださいませ。
人物感想お品書き
今回は
- 薫
- 匂宮
- 大君
に焦点を当てたいと思います。
浮舟は前回で結構語ったので、今回は省略。
薫
宇治十帖の主人公的立ち位置だと思うのですが
「因果」というものに絡めとられた主人公。
表向きの父は源氏の君(実の父は柏木)、母は女三の宮で、物語のなかでもどんどん出世していくし、女二の宮も妻にもらい、これ以上にないくらい恵まれている人。
なのに、本人は厭世的である。
かと思えば、大君に惹かれて年頃の男性らしい一面もちゃんと出てくる(笑
けど、そういう自分にも戸惑っていて、あらゆる場面での彼の言動、ひとことで言うと「はっきりしない男」
薫を見ていると、優しさと曖昧な態度は紙一重なんだなと思います。
荻原さんは後書きで薫の自信のなさについて言及されています。
こういう人は、おおらかですべてを受け入れてくれそうな懐の深い女性が合うのではと思うのですが(書いてて思ったけど、女二の宮様は実はぴったりなのでは…!?)、なぜか薫が惹かれるのはそれとは真逆のタイプ……この辺はいつの世も同じですね。
大君は、どこか薫と似たところがあったのではと思います。背景は違いますし、大君のそれは自信のなさから来ているのではなかったのですが。なんとなく似たもの同士。
しかし、芯が強い分、大君のほうが上手というか、よくわかっていると思います。
浮舟のことも、浮舟その人というよりは大君の形代として求めているところがあって、匂宮に出し抜かれるのも自業自得ではあったように思います。
書いてて思いましたが、わたしは薫が嫌いなのかな?(笑
漫画で読んでいるときは、匂宮より圧倒的に薫のほうを応援していたのですが、改めて感想を書くとめずらしく毒舌になってしまいます。
だからといって匂宮が好きかと言われれば、まあそうでもないんですが。
匂宮
薫と対比で描かれているツートップの貴公子。
源氏の君には頭の中将という良きライバルがいましたが。
なんというか。薫と匂宮のほうが面倒くさいよね(笑
それは、宮様と臣下という関係もあるかもしれないし、それでいて従兄弟同士(表向きは)という関係でもあるし、幼なじみでもあって。
当然かもしれないのですが、親王という身分で匂宮は薫より自由がきかないのです。
いま思ったけど、この二人、立場が逆のほうがお互いのためにも幸せだったのでは……(そんなありえない設定について言われても
まあ、スムーズに事が運ばないのが世の常ではありますが。
なんというか、浮気男の代名詞のような御方で。
そのときそのときは、本人もいたって真剣です。そして情熱的。
いつの世にもこういう殿方はいらっしゃるのですね(笑
でも、なんというか、手に入れるまでがいちばん熱が高いときで、穏やかなぬるま湯のような温度感は似合わない人。
中の君が、自分の行く末を心配するのも当然とも言えます。(想像以上に匂宮はマメで中の君のことも大事にしていますが…)
つくづく思うのは、この人いちばん好きなのは薫なんじゃないかなあと思います。
薫がもうちょっと気概を見せて匂宮に張り合ってくれると嬉しいんじゃないかなとか。
でも、そういうことって本人も意識してないし言葉に表すこともないんですよね。
(薫も絶対そういうことに乗るタイプじゃないし)
結果的に、彼の周囲に女性の影が常につきまくるという。
出生にいろいろとある薫はともかく、匂宮は生まれもいろいろと恵まれていてほんとうに周りに大事にされて育った人なのに、だからこそ満たされないものがある。
陽の気が強い人は、それだけ陰(薫)に惹かれてしまうということなのか。
荻原さんも後書きで書かれているように、浮舟が匂宮を選んだとしても、そのうち飽きられてしまうのはオチですよね。
しかも、姉である中の君の手前もあるし、浮舟の立場はもっとゆらゆら危うくなります。
その点、薫のところに行っていれば、はっきりしない人ではあるけれど堅実なので、末長く大事にはしてくれそうです。超絶の安定(笑
どちらも選ばなかった浮舟さんはやはりすごいと思うのです。
(あ、あれ? 匂宮の感想のはずが浮舟の話になってしまった・汗)
大君
薫は中の君と一緒になってもそれなりに幸せになれそうな気がしましたが(大君が亡くなった後は未練タラタラだったし)
匂宮は大君とは絶対合わないだろうなあああと強く思います。
父である八の宮にとても似ている、父の娘というべき人。
父と一緒に都から離れた宇治で暮らしながら、品位と気高さを失わず魅力的なお姫様。
大君を見ていると、頑固と芯の強さは紙一重と感じますが
薫からあんなに言い寄られても、最後まで頑なに拒み続けた。
(まあ、薫も自分の気持ちに気づくのに遅すぎて長いこと曖昧な態度でしたが、匂宮みたいに情熱的にアプローチしてきたらもっと早い段階で大君は警戒して断っただろうなと思います)
大君と浮舟は外見が似ていますが、つくづく中身は全然違います。
ふと思いましたが、もし浮舟が八の宮に認知されて引き取られていたら、大君は持ち前の責任感の強さで浮舟のことも末の妹として大事に扱ったのではないでしょうか。
それこそ、おっとりしている浮舟を心配してあれやこれやと手を焼いてくれそうですし、
意外と三姉妹で仲良く過ごせたのではないかと想像してしまいます。
宇治の物語の女主人公はやはり浮舟かなと思いますが、もう一方で対局のような大君の存在もやはり大きいと思うのです。
宇治の姫君たちは、三者三様、それぞれのかたちで自らの行く末を歩んでいったようです。
大君は誰とも結ばれることを選ばず死を迎え
中の君は匂宮と結ばれて薫とも微妙な距離感で付き合い続け
浮舟は薫と匂宮の板挟みにあい、最終的にどちらも選ばなかった
たぶん世間一般的には中の君がいちばん世渡り上手になるのですが(基本的に中の君は柔らかいのです。そこが彼女の魅力だと思います)
大君のかたい生真面目さもわたしは好感が持てます。
結び
こうして書いてみると、「宇治の結び」は男性陣(薫と匂宮)には共感せず(すみません)、されど女性陣(大君、中の君、浮舟)には意外と共感して好感を持っているのがわかりました。
これはわたしが女性なのもあるのかな。
作者の紫式部が女性なのもあるのかな。
不思議なのですが、読後には「誰にも好感が持てない」と思って感想を書き始めたのに(ゆえに「宇治の結び」の感想を書くのがいちばん難産、時間がかかりました)
書き終わってみると、宇治の姫君たちのそれぞれの生き方に共感を覚えるのでした。
やっぱりアウトプットは大事だなあ。
まとまりのない感想にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
関連情報
▽ これまでの荻原訳源氏物語の感想
うっかり「つる花の結び」を先に読んでしまいました。(刊行順は紫→宇治→つる花)
源氏物語の主軸を一気に読みたければ、紫→宇治の順番が良いです。
*