新聞の書評に載っていて、面白そうだなと思ったので読んでみました。
何度も心折れそうになりながら、最後まで読んだら、読んだだけのことはありました。
はじめに
※本文とは関係のないひとりごと感想です。(スキップしたい人はここをクリック)
実はわたし、「合理的」って言葉が嫌いだったんですね。
なんだか冷たそうじゃないですか(超主観的だけど)
でも、もしかしたらわたしは「合理的」ってなんなのかそもそもよくわかっていないかもしれない。
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結論から言いますと、この本。むずかしいです。
「合理的とはなんぞや」を説明するために、数学や確率論、統計、ゲーム理論がわんさか登場します。
たぶん著者からしてみれば一般向けに噛み砕いてわかりやすーくわかりやすーくしてくれているんだけど
その方面が苦手だったわたしは何度も心折れそうになりました。
きっと途中で投げ出した人は他にもいたはず。
でも、まあとりあえず最後まで読んでいただきたい。
*
「合理的であること」と「道徳的であること」を、著者は結びつけています。
一見最も結びつかなさそうなことを結びつけるのです。
暗雲立ち込める現在の日々において、それでも世界はより良い方向へ向かっていると希望の持てる締めくくりがされています。
合理性は、決して人々を非人間的に扱い無駄を排除する概念ではないのです。
(あ、それはわたしの主観的イメージでした)
感想まとめ
今回も、テーマを3つに絞ってお届けします。
- 情報の取捨選択について
- 複数の原因がある
- 合理性は世界を平和へ導く
わたしは統計や確率論は苦手なので、もっと詳しく知りたい方は本書をお読みください。
自分の理解した範囲で感想を書いています。(ので、統計などのお話はこの感想にはまったくありません)
情報の取捨選択について
合理的判断を行うときに、まず大切なのは情報を適切に扱えているか。
これは、人間には反応バイアスがあるから、基本的に不可能に近いほどむずかしいのです。
簡単にいうと、人は自分の見たい情報を多く求めるし、聞きたくない情報には目を背けるし、センセーショナルなニュースほど誇張されて広まりやすい。
コロナでも、そういう場面にたくさん遭遇したと思われます。
ではどうすれば、理解を現実に合わせて調整し、この世界の本当の危険を認識できるようになるのだろうか。それにはまずニュースの消費者であるわたしたちが、ニュースに固有のバイアスがかかっていることを意識して、食事のバランスと同じように情報摂取のバランスをとる必要がある。情報源が偏らないように気を配り、より大きな統計的全体像も把握できるようにするべきだ。
(中略)
またジャーナリストには、センセーショナルな事件こそ、文脈のなかに置いて語ってほしい。殺人事件、飛行機事故、サメの襲撃等々には年間発生数を添え、確率という分数の分子だけではなく、分母も同時に伝えるべきだ。(上巻P208 第4章ランダム性と確率にまつわる間違い)
(サメの襲撃が入るのがお国柄なのかジョーズを産んだ国だからか……あ、脱線しました)
例えばテレビ、新聞、ネットニュース、SNSなどなどいろいろな情報源がありますが、偏らずに、またその情報源のみを鵜呑みにせずに、さまざまな情報を照らし合わせて現実を理解することが大切なのだろうと思います。
なかなか骨の折れる作業ですが、「それくらい情報ってバイアスがかかりやすいんだな」という事実を知っているだけでも随分と変わってくると思う。
複数の原因がある
原因が複数あるという発想がすでに浮かびにくいのだから、複数ある原因同士が互いに作用するという発想はもっと浮かびにくい。
(下巻P160 第9章 相関と因果を理解するツールの数々)
多くの場合、ものごとをシンプルに考えがちです。
例えばある事件が起こったときに「原因はなんだったのか」とか。
でも、そんなにものごとって単純じゃない。
だが現実には、ある原因の効果が他の原因に依存する場合が少なくない。たとえば、練習を重ねれば誰もが腕を上げるが、才能のある人が練習すればもっと腕を上げられる。こうした発想が浮かびにくいのは、わたしたちが複数の原因について考えたり語ったりするための語彙を結びつけていないからでもある。
(下巻P160 第9章 相関と因果を理解するツールの数々)
ちなみに原因のそれぞれに統計があるそうなので、その相互作用を考えたらとてもとても複雑になります。
ひとつめの情報バイアスの話でもそうでしたが、ものごとを合理的に考えるとき、複数の原因をもとに考える必要があります。
単純に綺麗に線引きできるほどものごとは簡単ではないということ。
近い将来、わたしたちの行動はすべて人工知能に予知されるのではないかと恐れる人々は、この結果(※)を見れば、安心できるだろう。だがこの結果は同時に、自分たちを取り巻く因果ネットワークはすべて理解できるはずだと思っているわたしたちに、それは自惚れにすぎないと戒めるものでもある。
(P171 第9章 相関と因果を理解するツールの数々)
※ヒトの将来の行動の予測をアルゴリズムによってできるかという研究。結果は、アルゴリズムでは正確に予測することはできない、各家族固有の特質があるというもの(超大雑把な要約です)
「こうすれば〜〜なる」とか「〇〇する人は△△だからだ」と、因果で説明できるほど単純な話ではなく、複数の要因が複雑に絡み合ってさらに結果は容易には予測できない。
改めて言葉にすると当たり前じゃんとも思えますし、だから世界は面白いんだろうなとも思います。
合理性は世界を平和へ導く
本書を読むまで、わたしは「合理性」を「道徳性」と結びつけることがありませんでした。
「道徳の主成分である公平性は、代名詞を入れ替えられる(※)という論理上の発想にとどまるものではない。それは事実上、すべての人の暮らしを平均的によくするものだ。(中略)全員が人を助けること、傷つけないことに同意すれば、全員が得をする。もちろん人間は完全に道徳的だなどといっているのではない。わたしがいいたいのは、人間が道徳的であるべき合理的な理由があるということである」
(上巻P120 第2章 合理性と非合理性の意外な関係)
※「それをあなたがされたらどう思う?」と自分に置き換えて考えること。
「道徳性=合理性」ではないのです。
でも、「道徳性→合理性」ではある。
そりゃあ、誰かが傷ついたり損したりするより、みんな傷つかずに損しないほうが、全体の公平性とともに幸福値も上がるでしょう。
「では何で説明できるのかというと、それは自己と他者の区別である。(中略)
道徳の核は公平性にあるのだから、わたしたちは自分の利己的な損得勘定と他者のそれとの折り合いをつけなければならない。また合理性の核も公正性にあるのだから、わたしたちはそれぞれがもつバイアスのかかった不完全な意見を調和させて、個々人を超える現実の理解へといたらなければならない。その意味では合理性は認知的な徳であるばかりか、道徳的な徳でもある」(下巻P227 第10章 なぜ人々はこんなに非合理なのか)
その場合、
「他者が不利益を被ってでも自分の利益を追求するか」(自分だけ良ければOK)
「多少自分の利益が下がっても、全体の利益が上がるのならOKとするか」(自分と相手双方の利益を考える)
おお、それってまさしく道徳的だよね。
(まあ、どれくらい自分の利益を下がることを容認できるかは人によるかもしれませんが……ほら、ここにも複数のファクターが入りこむのです)
知性イコール合理性とはいえない。ある人が計算が得意でも、正しいことに計算を使うかどうかはわからないのだから。合理性はいわゆる知性だけではなく、思慮深さ、開かれた心、そして形式論理や確率などの認知ツールも使いこなす能力も必要とする。
(下巻P238 第11章 合理性は人々や社会の役に立つのか)
本書では、最終的に道徳性と合理性のゴールは世界平和という壮大なテーマへ集結していきます。
まあ、そこは希望的観測もあるかもしれないけれど、著者なりに世界は合理的に平和へ向かっていることを証明しようとしてくれています。
驚くべきことに、平和への道筋(道徳の進歩)は偉大な為政者や指導者が導き出したものではなく、はじまりは小さな一歩からだったのです。
ところが、道徳の進歩の実態を解明しようと調べてみたところ、ドミノ効果の最初の1枚が理路整然とした議論だったという例が歴史上非常に多いことがわかり、わたしは大いに驚いた。
たとえばひとりの哲学者が、ある行為がなぜ許されないのか、なぜ非合理なのか、なぜ人々の価値観と矛盾するのかについてさほど長くない文章を書く。
(中略:それが人々のあいだに広まり、やがて為政者へ、そして世論へ影響を与える)
やがてその結論は社会通念や一般良識のなかに取り込まれ、そこにいたる議論の道筋は忘れられていき……といったプロセスが繰り返されているのである。(下巻P245 第11章 合理性は人々や社会の役に立つのか)
ほんの100年前でも、現在とは常識が異なっていることは多々あります。
そういうものは、えらい人がどこかで議論してなされたものではなく、最初の一歩は小さな声からはじまっていた。
健全な議論が、世の中をもっと良い方向へ導く合理性の力と結びつく。
それは、長じて見れば世界が平和に向かうことになるのかもしれない。
平和が脅かされている現在だからこそ、より考えさせられることでした。
結び
わたしの理解力では全然咀嚼できるレベルまで達していない気がするし、著者の考えに完全に同意したわけでもないです。
でも合理性と道徳性を結びつける考え方には「なるほど」と思うところがありました。
この前に読んだ「人新世の資本論」にも繋がるところかもしれません。
ほら、これも小さなドミノの波なのかもしれませんよ。
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