『ケルト人の夢』マリオ・バルガス=リョサ

 

いやー長かった。読むのに時間がかかりました。

途中で挫けそうになりながら、なんとか読み終わりました。

読みやすい本でもないし、そんなに楽しくもない本なんだけど、でも多くの人に読んでほしいなと思える本でした。

拙い紹介ながら、少しでも興味を持ってもらえると嬉しいです。

 

※最初のお断り

・恥を承知で、自分の無知さをさらけ出しています。

・ネタバレ的なことも含みます。歴史的事実なのでネタバレといっていいのか。

 

感想

新聞の書評でタイトルをチラリと見て、内容も著者もよく知らないままに手に取りました。

なので、マリオ・バルガス=リョサが2010年にノーベル文学賞を受賞したことも、この作品の主人公であるロジャー・ケイスメントについても、はじめて知りました。

 

この物語で扱われているコンゴやアマゾンで起こった非人道的な搾取についても、アイルランドで起こったイースター蜂起についても、お恥ずかしながらはじめて知ることだらけで、そんな無知な人間がこんなところで感想にもならない文章を書いても良いものかと、これを書きながら悩みました。(結局書いている)

 

ああ、わたしはほんとうに何も知らないんだなあ」と改めて知りました。

 

本書は、ロジャー・ケイスメントという人物についての歴史小説です。

ものすごく分厚い。500ページを超える大作です。なにせ知らないことばかりで、読むのがとても大変だった。(本を持ち運ぶのも大変だった……)

 

その内容については、リョサによる創作もありますが、ロジャー・ケイスメントという、コンゴとアマゾンでの現地の人々への搾取を告発し、一度は大英帝国で英雄としてナイトの称号まで与えられた人物が、アイルランド独立のためにドイツと手を組み、絞首刑に至るまでの過程を、丁寧に綿密に描写されています。

 

わたしは、残念ながら今回はじめてロジャー・ケイスメントを知ったから、これまでのイメージも何もなかったのだけれど、一見すると「なぜあの人があんなことを?」という疑問を、見事に解き明かしているように思いました。

それは歴史の事実だけを追っていると見えない部分です。

小説という、個人の物語にフォーカスする媒体だからこそできることでもあります。

 

おそらくその背景には、時代の流れもあるでしょう。

当時は受け入れ難かったことも、現代は少しずつ寛容になってきています。

(この物語は、人の非人道的な行いや支配とともに、性に対する視点も欠かせない要素になっています)

 

ほんとうに平凡な感想なのだけれど、学生時代に歴史や地理の授業で習った「点」であった知識が、こうやって知らないことを知ることによって線によって描かれて、そしてほんの少し、面で捉えることができた感覚です。

学校の教育は、その点を打っていく作業なんだろうなあ。

それは、ほんとうにはじまり、とっかかりでしかない。(その点を打つ作業も、大切なことではある)

 

そこからどんなふうに線を繋いでいくかは、その人次第。

でも、線がつながっていくと、これまで見えなかったものも見えてきて、面で捉えるのはそこからさらに途方もない作業がいるのだけれど、いろんな物事への見え方が変わってきます。

 

《確かに彼らには銃がない。だが人数は多い。蜂起すれば、たとえ死者が出るとしても、自分たちを苦しめる連中に人数で勝てるんじゃないか》ロジャーは、そんなに単純ではないと彼に応えた。アフリカでコンゴの先住民が蜂起しなかったのと同じ理由だ。

(中略)

搾取の制度が極まると、肉体以前に精神を破壊してしまうからだ。彼らが犠牲になっている暴力は、抵抗する意欲、生き長らえる本能を失わせ、先住民を混乱と恐怖によって麻痺した自動人形に変えてしまう。(P244)

 

これと同じようなことが、第二次世界大戦のヨーロッパでも起こっていました。

今このときも、世界のどこかで起こっていると思います。

 

数日前に起こった出来事は、直接重なるわけではないのだけれど、恐怖や暴力はいろんなものを麻痺させて、人が人らしくあることを脅かします。

それは世界をより良い方向に導くものでは決してないはずです。

 

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