少し前に、兵庫県立美術館で開催されていたアアルト展へ行ってきました。
※兵庫県立美術館では、感染対策のため時間帯ごとに入場人数制限を実施しています。
概要
今回の展覧会は、フィンランドの近代建築家・都市計画家・デザイナーとして有名なアルヴァ・アアルト(1898-1976)と、その妻のアイノ・アアルト(1894-1949/彼女も建築家・デザイナー)の25年の軌跡をたどっています。
アアルトといえば、フィンランドにある「カフェ アアルト」でわたしはその名前を知りました。
京都にもカフェ アアルトの2号店があるそうで、前から行ってみたいと思っていたところでした。
建築やデザインの教養がないので詳しくは存じ上げなかったのですが、アルヴァ・アアルトは20世紀を代表する有名な建築家だったのですね。
今回は代表的な功績がいくつか取り上げられていましたが、その幅の広さと現在でも色褪せない洗練されたスタイルに釘付けになりました。
ちなみに、今回の展覧会は写真撮影OK、SNSに上げてもOKでした。
何枚か写したので、空気感が少しでも伝われば良いなあと思います。
構成
今回はアアルト夫妻(アルヴァさんだけでなく、アイノさんと夫婦二人の共同がテーマになっている)の軌跡に焦点が当たっているので、二人の生い立ちや出会いからはじまります。
1章 イタリアから持ち帰ったもの
2章 モダンライフ
3章 木材曲げ加工の技術革新
4章 機能主義の躍進
5章 アルテック物語
6章 モダンホーム
7章 国際舞台でのアアルト夫妻
Epilogue 分かち合ったヴィジョン
二人の出会いは、アイノさんがアルヴァさんの建築事務所に勤めることがきっかけでした。
出会って半年後に二人は結婚します。
公私ともにパートナーとして活躍されてきたこと、そしてその別れのときまでを、この展覧会で知ることができます。
夫のアルヴァ・アアルトは世界的にも有名でよく知られていますが、その妻のアイノ・アアルトについてはそこまで知られていないんじゃないのかなと思うので(その方面の知識が全くないので推測ですが)、二人を同時に扱っているのはユニークな展覧会ではないかと思いました。
展覧会の様子〜写真を通して〜
何枚か写した写真を紹介します。
トゥルクの自宅兼事務所
こちらの家具は妻アイノさんのデザイン。
実際のお子さんとの写真も添えられていました。
シンプルなデザインですが、子ども向けということもありどこか温かみがあります。
1930年にヘルシンキで開催された「最小限住宅展」の一部が原寸で再現されています。
4〜5人家族向けの小規模住宅が想定されて2つの寝室とリビング、ダイニング、キッチンが会場にセッティングされていました。(写真はその一部)
1930年って。もうその時代から、家族形式やライフスタイルはすでに変わりつつあったんですね。
「木材曲げ加工の技術革新」(有名なL-レッグ(無垢材の木材曲げ加工技術)は、特許が取得されています)に展示されているウッドレリーフ。
合板ではなく、無垢材を加工しているのがすごい! 「スツール60」は今でもArtekで購入することができます。
ちなみに、展示の合間のスペースに69チェアが配置されていました。
ここは実際に座ることができます。
わたしも座ってみましたが、身体にすっと馴染んでとても座りやすかったです。
座面が木の椅子って初めての体験だったのですが(木が好きなのに……)この感触は無垢材ならではだなあと思います。
ちなみに耐久性を高めるために座面は無垢材の一枚板ではなく組み合わせてつくられているのも特徴的。会場にあった動画でその様子を見ることができました。
フィンランドは森と湖の豊かなムーミンの住まう国。
アアルトさんの仕事もそういった土壌と無関係ではないのだろうなあと、想像してみる。
こちらは子ども用の折り畳み式のベッド。アイノさんによるデザインです。
家庭用ではなく、子どものための施設で使われることを想定されたものです。
こちらはArtek(アルテック)の家具のミニチュア。69スツールはちゃんとスタッキングできる精巧さです。
会場売店で、400円のガチャガチャで手に入れることができます。
1日50個限定で、わたしが行ったときにはすでに売り切れていました。(展示の写真撮影はOKだった)
確かに。これは、欲しい!
感想〜近代建築、時代の先端を歩んでいた〜
とても驚いたのは、彼らの生きた時代は(日本でいう)戦前から始まっていたこと。
拙い知識なので恐縮ですが、同時代の日本と比べると、なんと彼らは時代の先を歩んでいたことか。
アイノは兄弟も多かったのですが、父親は子どもの教育には熱心で、彼女はヘルシンキ工科大学の建築科に進学しています。
当時、女性の社会進出はフィンランドでもまだめずらしかった時代。
にも関わらず、専門性を身につけてのちに夫となるアルヴァ・アアルトと共に生涯建築やデザイン(アイノはデザインのほうが多い)に携わります。
2章に展示されている「最小限住宅展」にもあるように、時代は女性が家庭から社会へ出ていく世の中に変わっています。(この展覧会、1930年ですよ。信じられない!)
そのなかで、これまでと全く違うライフスタイルに合わせて考えられたのが「最小限住宅」
必要最低限のもので、生活に必要なものはなにか、そして衛生面と機能性、それでいながらデザインも両立されている。
大量生産品が、「安くて質が悪いもの」ではない。
フィンランドにあるライフスタイルの萌芽は、およそ100年前(!)にはもう始まっていたのです。
そしてこれは想像ですが、そういう建築やデザインには、アイノのような女性ならではの視点も活かされていたんだろうなあと思います。
超先入観と偏見に満ちた言い方をすると予め断っておくと、建築は場合によっては「自分の作りたいもの」や「こだわり」が強くなって、機能性やコスト、使い勝手が後回しになることがあるように思います。
でもアアルトのすごいところは、彼らはあくまでプロフェッショナル。
「実際的にどういうものが求められているか」という視点から始まっている。
そしてそれは、衛生学や人体工学などの視点も加味された、実に実際的なもの。
それでいながら、彼らの作り出すものには彼ら独自の”スタイル”が存在する。
最近北欧ものに触れる機会がよくありますが、”シンプルさ”と”機能性”、それでいながら”スタイリッシュ”であることは、決して相反するものでないことが、当時から確立されていたんだなあ。
わたしは建築には詳しくないので(それはもう何度も言っている)、素人目線でつらつら語っていますが、専門にしている人や詳しい人からしたら、また違った味わいや感想が生まれてくるんだろうなあと思いました。
だって素人目線でも、こんなにも魅力的。
アルヴァ・アアルトは都市計画家としても有名で、工場の住宅地なども手がけていますが、周囲の地形や景観まで考えて設計している。
有名なパイミオのサナトリウムも、そこで過ごす患者(当時サナトリウムで過ごすのは肺結核の患者でした)のことを考えて設計されている。
光や空気の流れまでもが考慮されている。彼らが座る椅子にも、呼吸がしやすいようにと考えて設計されている。
単に”こういうものがつくりたい”だけがあるわけではなくて、全体の調和やニーズに基づいている。
もちろん個人の大邸宅も設計されていますが、その仕事の大部分はむしろ大衆住宅にあったことや
全部は見ていないのですが、展示会で流されていたビデオで「家のなかでの会話は、いつも仕事の話ばかりだった。建築哲学に関する話は一切なかった」と語られるインタビュー(おそらくご家族。アアルト夫妻は、自宅兼事務所を構えていたのでした)
そういったことからも、うかがい知れます。
結びに変えた小話
わたしが通っていた大学は、建物が新しくなったばかりでとてもお洒落っぽい建築でした。
しかし、当初想定されていた美しい芝生が、建物の立地場所によっては日照などの条件が合わずに機能しなくなっていました。
当時の学部の教授が授業でそのことを嘆いていたのを覚えています。「環境面を考慮しないで設計するからこうなるんだ」というようなことを言っていました。
それは、それまでのわたしにはない視点でした。
例えば、大きなマンション一つ建つことで風の流れが変わる。日照条件が変わる。いろんな生態系に微妙な変化を及ぼす。
そのように、建築は物理的に隔絶された存在ではないんですよね。どこに建つか、それは交通条件だけの問題ではないのです。湿気の多い土地、雪の多い土地、乾燥した地域、それぞれに考慮することは違います。また、それが建つことによって生じるインパクトも。
建築はただの容れ物ではなくて、外的にはそこに置かれる自然環境にどう馴染ませるか、内的にはそこに住まう人にとってどう機能的であるか。
うーん、奥が深い。詳しい人には面白い世界だろうなああ
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