HSP(HSC)と発達障害についての考察 - -子どもの敏感さに困ったら読む本 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方


子どもの敏感さに困ったら読む本: 児童精神科医が教えるHSCとの関わり方

「敏感すぎる自分を好きになれる本」でお馴染みの、長沼睦雄先生のHSCに関する本です。

▽HSPに関する長沼先生の本はこちら


「敏感すぎる自分」を好きになれる本 長沼睦雄 青春出版社

 

▽その本の紹介記事はこちら

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はじめに:HSCって?

HSC(Highly Sensitive Child)はHSP(Highly Sensitive Person=とても敏感な人)の子ども版のことを指します。HSPを提唱したアーロン博士もHSCの本を出されています。


ひといちばい敏感な子

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アーロン博士のHSCの本も具体的な事例が満載で、発達段階ごとのアドバイスも載っていて、とても参考になります。

しかし、やはりどうしても文化差はあります。

そういう意味で、日本で日々の臨床に携わる長沼先生の本は、もうちょっと日本人に近い目線で具体的なアドバイスを書かれていると思います。

もちろん、本書もアーロン博士のHSCの本を参考にされ、引用もされています。どちらが良いかではなく、それぞれの良いところをうまく使いながらどっちも読んでいくのが得策と思います。

また、長沼先生は脳神経科学も専門にしておられるので、神経発達症(発達障がい)との絡みもけっこう突っ込んで書いてくれています。

HSC入門としては、アーロン博士のHSCの本の翻訳もされている、明橋大二先生の「HSCの子育てハッピーアドバイス」がおすすめです。


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本の紹介

全5章の構成になっています。

第1章 敏感すぎる気質HSCの特性
第2章 困ったときの子育てアドバイス
第3章 敏感すぎて生きづらさを抱えてしまう子どもたち
第4章 こじらせないために親がすべきこと
第5章 その敏感さを「強み」にする

アーロン博士お馴染みの「HSCチェックリスト」もついています。
巻末には「HSPチェックリスト」も付録についていますよ。

全てを取り上げるのは難しいので、今回は特に気になっていた神経発達症の絡みについて主に取り上げます。

 

HSPやHSCの4大特性

「ひといちばい敏感な子」でアーロン博士も記述されている、HSC(HSP)に特徴的な4つの性質があります。

HSCチェックリストはある程度の基準はありますが、一方で曖昧さも含みます。例えば「チェックリストにいくつ以上と基準はあるけれど、「はい」が1つか2つでも、その度合いが極端に強ければHSCの可能性が高くなる」というように。

でもこの4つの性質(DOES)は、全て当てはまることが「人一倍敏感」HSP、HSCといえる。

「人一倍敏感な人にはこの4つの面が全て存在するということです。4つのうち1つでも当てはまらないなら、おそらくここで取り上げる「人一倍敏感」な性質ではないと思います」

(子どもの敏感さに困ったら読む本 P33-34)

 

それぞれの頭文字を取って、DOES とアーロン博士は呼んでいます。

D(深く処理する:Depth of Processing)
O(過剰に刺激を受けやすい:being easily Overstimulated)
E(全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い:being both Emotionally reactive generally and having Empathy in particular )
S(ささいな刺激を察知する:being aware of Subtle Stimuli)

 

それぞれについて、本書では長沼先生の見解も書かれているので、詳しく知りたい方は本書をご参照ください。

個人的に、神経発達症との違いを考えるミソは、このあたりにあるのではないかと感じています。

神経発達症については次の項目で。

 

神経発達症(発達障がい)との関連

わたしはHSPについて知ることで、「ああ、そうか。わたしの生きづらさはHSPだったのか」とストンと落ちました。

それまでに実はわたしも自分は発達障がいかな? と疑ったこともありましたが、どうにも発達だけで考えるとうまく説明できなかったからです。

でも、HSPを知っても、HSPと発達障がいとの違いを、まだ自分のなかにうまく落とし込めて説明できませんでした。両者には重なる部分も確かにあるからです。

 

(同様に、発達障がいと言われる特性のなかには、定型発達でも全く重ならない訳ではありません。誰にでも、つまり定型発達でも、多少の発達特性はあるのです。問題は項目の数とその度合い、日常生活がどれくらい困難になるかでもあります)

 

まずそもそも「発達障がい」と「HSP」は同じ土俵で考えるものではないのです。

神経発達症(発達障がい)は、医師が診断するものです。

 

診断にはDSM-5(アメリカの精神医学会による分類)やICD-10(WHOが作っている分類)が基準として使われています。

DSM-5から「神経発達症」という言葉が入りました。長沼先生はこちらの言葉をよく使われています。

「発達障がい」は、この神経発達症に含まれるASD(自閉症スペクトラム症)やADHD(注意欠陥多動症)、LD(局限性学習症)などを指す幅広い概念で、診断名ではありません。

 

一方、HSPやHSCは、生まれつきの気質を表す概念で、そもそもそれ自体は病気を表すものではありません

当然のように、DSM-5やICD-10には記載されてもいないし、近くの精神科に行っても診断されることはありません。

 

 

アーロン博士は、「ひといちばい敏感な子」で、ADHDやASD(アスペルガー、自閉症)とHSCは違うと述べています。

 

一方、今回の本書では長沼先生は「HSCとASDには重なる部分がある」と述べています。ただし、違う部分も丁寧に吟味された上でです。

長沼先生は日々臨床場面でHSCにも神経発達症にもどちらにも開かれて多様な患者さんと接しておられ、また脳神経科学の知見も合わせてそういう考えに達せられたのだと思います。

アーロン博士のHSCの本は翻訳されるまでのタイムラグもあると思うので、アーロン博士の現在の見解が異なるかはわかりません。

 

まだわたしも十分に咀嚼しきれているとは言えないのですが、本書を読んで、今のところ

・神経発達症と診断された人のなかにもHSC(HSP)気質の人はいる。
・基準はDOESが当てはまるかどうか

なのかなあと理解しています。

 

つまり、神経発達症=HSPではないけれど、神経発達症の人のなかにはHSPの人もいるということです。

神経発達症も、HSPも、いや言ってしまえばマイノリティに限らずマジョリティでも、大きなくくりはできても、細部を見つめていけば、それぞれには少しずつ違って一つとして同じものはないのです。全ての人は等しく多様である。

 

だからこそカテゴリ化することに難しさもあるのですが、そこに面白さもあります。「みんなちがって、みんないい」とは、かの有名な金子みすゞさんの言葉にもあります。

 

結び

発達障がいは昨今よく言われるようになって一般の人でも知られるようになった反面、センシティヴな問題も孕むので、このブログでもどう取り上げようか結構悩んでいました。また機会があったら今後も考察をしてみたいと思います。

また、やっぱり大事な点として、最後に。

本書でも、敏感さをデメリットと捉えずに、その繊細さを持ち味にしようと訴えておられます。

ただ、日々やりづらくなることは、非HSCより多くなります。

また大人になったときにAC(アダルトチルドレン)などの二次障害を起こしやすいことも挙げられています。結構この辺は、専門的なこともわかりやすい言葉で説明されています。

もし子どもが敏感な子(HSC)なのかな? と気になったときには、読んでもらえると良いのかなと思います。

 

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この記事で紹介した本の一覧

 

おまけ。長沼先生は発達障がいの本も出されています。脳神経科学の切り口から書かれているので、こちらもなかなか面白いですよ。


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